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太極拳の歩型と歩法

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太極拳の歩型と歩法のロゴ

太極拳や八卦掌などの中国武術には、いくつかの代表的な歩型と錬功法としての歩法があります。

今回は中国拳法の基本的な歩型と歩法について紹介します。

太極拳の歩形の種類と意味

歩形とは、架式とも呼ばれ、定まった立ち方の事を指します。

実際に太極拳や八卦掌など、中国武術の代表的な歩形を見てみましょう。

馬歩(まほ)

別名 騎馬式。文字通り、馬に跨ったような立ち方の事を言います。

両足の重心は、左右均等で、膝を左右に張る力と、膝を内に絞る力も均等に働いています。

八卦掌の順勢掌の馬歩
馬貴派八卦掌 順勢掌の馬歩

馬歩を用いる機会としては、棍や槍などを上から下へ振り落とす動作など、下半身をしっかり固定する際に用いられます。

棍術基本 劈棍

棍を振り下ろす瞬間に馬歩となっている。

弓歩(きゅうほ)

弓歩は、前後に開いた両足が、弓を引いた形に似ているところから名付けられました。別名 弓箭歩

重心の割合は、前足 7~8:後ろ足 3~2となります。

楊式太極拳 攬雀尾 按勢の弓歩
楊式太極拳 攬雀尾 按勢の弓歩

弓歩は、主に前方へ力を出す。あるいは突き刺す動作で用いられます。

楊式太極短棍の擠勢

棍を突き刺す際に弓歩となっている。

虚歩(きょほ)

虚歩は弓歩とは反対に、後退して相手と間合いを計っている立ち方です。別名 後屈歩

重心の割合は、前足2~3:後足7~8となります。

陳式太極拳の初収の虚歩
陳式太極拳 初収の虚歩
基本刀術 進歩扎刀

進歩して突き刺し、後退して虚歩となる。

楊式太極拳 手揮琵琶の虚歩
楊式太極拳 手揮琵琶の虚歩

楊式太極拳には、前足のつま先ではなく、かかとを着けた虚歩もあります。

やや攻撃的な意識が働いています。

独立歩(どくりつほ)

独立歩は、片足を引き上げ、一本足で立った状態です。

引き上げの過程では、上に向かう提勁を意味し、引き上げた状態では、逆に下へ向かう沈勁を準備しています。

陳式太極拳 金剛搗碓の独立歩
陳式太極拳 金剛搗碓の独立歩
金剛搗碓の応用例としての膝蹴りの写真
金剛搗碓の応用例。この技法では独立式による提勁を膝蹴りで表現しています。

仆歩(ぼくほ)

仆(僕)は伏せる。倒れるという意味です。下勢とも呼ばれ、独立歩とは逆に身を沈め、潜り込むような姿勢となります。

低い姿勢での靠(体当たり)や独立歩への準備姿勢としても用いられます。

古伝太極拳の下勢の写真
古伝楊式太極拳の下勢

歇歩(座盤歩)

歇歩は、別名 座盤歩とも呼ばれ、両足を交差し、座り込んだ姿勢となります。

剣術などの套路によく用いられるほか、陳式太極拳の挿脚の前に行う懐中抱月の動作などにも採用されています。

古伝太極剣の歇歩の写真
古伝56式太極剣

太極拳や八卦掌の歩法

次に太極拳の歩法について紹介します。歩法とは、歩く方法。または法則の事を言います。

太極拳にとっての歩法とは、体軸の移動を伴なった重心移動の事です。

太極拳の歩法練習には、定位置で行う定歩、移動しながら行う活歩、そしてその場で転身する換歩などがあり、それぞれに前後、左右、斜行などの方向があります。

初心者にとって、最重要な課題は、定歩での歩法練習です。

また定歩の歩法練習にも、站樁の姿勢を維持して行う静功と、基本功と組み合わせた動功としての練習方法があります。

定歩の歩法練習(左右)

ここでは、体軸の移動や重心移動をもっとも明確に感じる事ができる 横方向への歩法を紹介します。

太極拳の歩法練習である横開歩の双重の状態の写真
上の写真は、両足で重心を均等に支えた站樁の状態です。

このように両足の間にアーチを形成し、均等に重心を支えた状態を双重と言います。

双重の状態では、頭の重さを体全体で支えており、垂直軸は体の中心にあります。

この站樁の状態から右足に重心を移してみましょう。

太極拳の歩法練習 右単重の写真
重心を右足に移す事で、体軸と右足の軸が上下に合致し、一本の柱となります。

この状態を単重と言い、体全体に分散していた重心が、一本の垂直線上に集約され、地球の中心へと貫通している状態です。

つまり体が一つにまとまり、一番重く、かつ強度が増した状態とも言えます。

実際に押されてみると分かりますが、双重(二本足)の状態よりも、単重(一本足)の状態のほうが、強度が増しているのが分かると思います。

太極拳の歩法練習 左単重の写真
この状態から、左右に重心を移動し、体の中にどのような感覚が起きるのかを感じてみて下さい。

答えは色々とあると思いますが、一つはこういった練習を行う事で、自分自身の体軸や重心といった感覚的なもの(物質的には存在しないもの)をより明確に感じる事ができるようになります。

次の段階では、上体は同じく不動ですが、様々な意念や要訣を用い、横方向へと力を運ぶ仕組み(内功)を形成していきます。

意念を用いた歩法(横開歩)の運勁図
様々な意念を用い、横方向へと力を運ぶ仕組みを作る。

太極拳や八卦掌などの内家拳が独習できない理由は、こういった意念を用いた指導は門派独自の工夫があり、正しく理解している指導者の指導が不可欠だからです。

定歩の歩法練習(前後)

同様の稽古は、前後でも行います。

意念を用いた定歩での前後の歩法練習の一例

動画を見て頂くと、まず腕自体は、ほとんど動かしていないのが分かると思います。

また単に脱力しているというよりは、意念を用いて、それに抵抗しているように感じると思います。

様々な意念を用い、要訣にしたがって、前方へと力を出す仕組みを作っていきます。

活歩の歩法練習

活歩とは、定位置で行う定歩に対し、活動する。移動しながらの歩法練習となります。

活歩の歩法練習の代表的なものとしては、以下のような練習法があります。

  • 上歩(継足で前へ半歩進む)
  • 下歩(継足で後ろへ半歩下がる)
  • 進歩(後ろ足を前へ一歩進める)
  • 退歩(前足を一歩後ろへ下がる)
  • 斜行歩(ジグザグに進歩して進む)
太極拳の前後の歩法練習を行う会員達の写真。
上歩での活歩練習の一例

定歩の歩法練習で形成した【前後に力を運ぶ仕組み】を継足で前方へと運びます。

太極拳の活歩の歩法練習を行う会員達の写真
斜行歩での活歩練習の一例

これらの活歩練習も習熟すれば、基本功と組み合わせたり、様々な練習法があります。

歩法練習は伝統太極拳の中軸をなす練習法であり、初心者に限らず、生涯練り続ける必要があります。

まとめ

今回は、太極拳や八卦掌などの中国武術の代表的な歩型と錬功法としての歩法について紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?

歩法練習は、伝統太極拳の中軸をなす練習法であり、やはり正しく理解している指導者の指導が不可欠となります。

当会の練習体系の根幹を指導して頂いた師父が「歩法は足を鍛えているだけじゃないよ」とよく仰っていましたが、私自身がその本当の意味が分かったのは20年ほど経ってからでした。

また古伝太極拳を学んだ鄭志鴻老師も「太極拳をやる人は、一生歩法の練習を続けなければならない」と仰っていました。

今後も歩法の意味について、深く考察しながら稽古を積んでいきたいと思います。


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