
太極拳を健康のために学びたいという方も多いと思います。
では、なぜ太極拳は健康に良いのでしょうか?
何となく健康に良い気がする。
気功法なんでしょ?呼吸法?
経絡とか、ツボが関係があるんじゃない?
様々な疑問があると思います。
本ページでは、伝統太極拳が体に良い理由について解説しています。
Contents
太極拳が健康に良い理由
太極拳の健康面については、大別すると以下の二段階が考えられます。
- 普段運動をしていない方が運動を始める事によって、筋力や体力が身に付く。
- 更に太極拳の練習を続ける事によって、体の内面から変わっていく。
①の段階においては、他の運動と変りません。普段運動をしていない方が、運動を始める事によって、筋力や体力、バランス感覚などが身に付いていきます。
②の段階は、太極拳だからこそだと思います。
正しい太極拳の練功を長年続けていくと、少しずつですが、体の内面が機械化 されていきます。
いわゆる、内功が身に付いてきます。
とはいえ、内功と言っても、一般の方には意味が分からないでしょうから、当会の練習体系と照らし合わせながら解説していきましょう。
内功について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧下さい。
太極拳の基本姿勢を身に付ける

伝統太極拳の学習は、站樁(たんとう)の稽古から始まります。
站樁を行う理由には様々なものがありますが、その理由の一つに太極拳を行うための姿勢を身に付けるといったものがあります。
では、太極拳の姿勢とはどういったものでしょう?
写真を見ると、首から下へかけて、緩やかなS字のカーブを描いているのが分かると思います。
この姿勢は、頭部の重さを全身に分散し、緩やかなカーブで、垂直に支えている状態です。
言ってみれば、バネの上に頭を置いている姿勢とも言えます。
頭部の重さは、男性では4~5キロあり、デスクワークなどで前傾姿勢が続くと首周辺の筋肉のみで支える事となり、肩こりや腰痛の原因となります。
肩こりが慢性化すると、頭痛などの要因ともなります。
正しい站樁の稽古を継続して行っていく事で、頭部の重さを全身で支える事ができるようになり、結果として、肩こりや腰痛などの予防となる訳です。
それに伴い、筋骨も変わっていきます。ここで言う筋は、筋肉ではなく、筋(すじ)、腱の事です。
全身の腱がつながり、骨格が適正な位置に維持される事で、太極拳を行うための準備姿勢が整ってきます。
太極拳の姿勢が身に付いてくる事で、太極拳独特の体の深層部を起点とした動きが可能となってくるのです。
太極拳の内功を身に付け、人間本来の動きを取り戻す
站樁(たんとう)などの稽古で、太極拳の基本姿勢が身に付いてきたら、太極拳の内功(基本功)を学んでいきます。
内功と言うと、何か神秘的なイメージが湧きますが、要は太極拳独特の身体の動かし方(動かす仕組み)を身に付けていくという事です。
理屈よりも、動画を見て頂きましょう。
身体を膨張させたり、収縮させたりしながら、手が上下しています。
この動きに何の意味があるのだろうと思った方もいると思います。
ただ、何らかの法則性は、感じて頂けたのではないでしょうか。
その法則性とは何でしょうか?
これも様々な答えがあると思いますが、その一つに全身が連動して動いているといった点があると思います。
少し大げさな表現を使わせてもらえるのであれば、この四肢と体幹部が連動した動きというのは、人間本来の生物体としての動きと言えると思います。
次項以降で、その理由について考えていきましょう。
生物体としての動きとは?
生物体としての動きという事で、人間以外の動物の動きも見てみましょう。
動物の動き
身近なところでは、犬や猫、馬などは、どのように動いているでしょうか?



これらの動物と人間の最大の違いは何でしょうか?
そう、人間以外の地上で生活する動物は、四足歩行を行っています。
遺伝子上は、人間に非常に近いチンパンジーやゴリラなどの類人猿も、移動する時は、前足を地面に付け、四足歩行を行っています。

四足歩行を行う生物は、前足と後足の両方を地面に付けて活動しており、必然的に四肢と体幹部が連動する仕組み(内功)を持っています。
それに対して、人間だけは、二足歩行を行う生物だという事です。
では、人間は普段どのような動きをしているでしょうか?
次項以降で人間の動きを観察してみましょう。
人間はどのように歩くか?
皆さんは、二本足で普段どのように歩いていますか。

股関節も多少は使っていますが、通常は膝から下だけ、それも使っている筋肉は足裏とふくらはぎだけではないでしょうか。
長距離を歩いた後は、ふくらはぎだけが筋肉痛になる事でも分かると思います。
人間の作業
では、仕事中はどうでしょうか?
パソコンなどでデスクワークをされている方は、体のどの部分を使って仕事をしていますか?

極端な事を言えば、使っているのは指先だけでは、ないでしょうか。
他にも人間は様々な仕事をしていますが、人間は毎日食事をしますから、料理をしている作業を例に考えてみましょう。
料理をするとなると、包丁を使います。包丁を使っている時の人間は、体のどの部分を使っているでしょうか?

押して切る時は、肩を支点に押し切り、引いて切る時は、肘を支点とした運動をしています。
料理中の作業としては、他にもフライパンを振っている作業などがありますが、どのような動きをしていますか?
肩を支点に肘を引いて振っていると思います。
料理以外にも、人間は数多くの作業を行いますが、大抵は肩を支点、もしくは肘を支点としたものです。
つまり人間は、歩く時は足だけ、何か作業をする時は、肩から先の腕だけを使っているのが分かると思います。
人間の全身を使った動き
では、スポーツを行っている時は、どうでしょうか?
スポーツでは、よく全身を使えと言われます。
ただし、大別すると、スポーツで全身を使って行う運動は二種類のみです。
- 腰を支点に体を反る動き
- 腰を支点に上体を左右に振る動き
順に観察してみましょう。
腰を支点に体を反る動き
腰を支点に体を反る動きは、テニスやバレーボールのサーブやアタックの動作に見られます。
正確には、体を反って力を貯め、その反動により力を出す運動と言えるでしょう。
おそらく人間が、一番大きな力を出す時に使う動作だと思います。


この体の反り戻しの動きは、サッカーのボールを蹴る動作や、格闘技の回し蹴りなどでも見られます。
また、水泳のバタフライや平泳ぎなどでも、同様の体を反る動きをしています。

この動きを、上記で紹介した動物たちの動きと比べてみると、どう感じるでしょうか?
動物たちは体を反っているでしょうか? 動物の写真に戻る≫
前足を精一杯伸ばしている犬の写真さえ、背骨を反ってまではいないと思います。
背骨は、それぞれの脊椎が椎間板を間に挟んでつながっていますが、一つ一つの可動域は、決して大きくなく、またどちらかと言うと反るよりも屈する側に適した構造をしています。
理由は、本来の背骨は、四本の足を土台としたブリッジとして、アーチ状の構造をしているからです。
それを反対に反ってしまうと、どうなるでしょうか?
もちろん、ある程度は支障がないと思いますが、スポーツ選手のように過度な負担をかけ過ぎてしまうと、腰痛などの故障の原因となるのが分かると思います。

これに対し、太極拳や八卦掌には、立身中正(りっしんちゅうせい)という要訣があり、体の中に天秤があるように意識し、体が前傾や後傾する事を禁じています。
以下の動画は、八卦掌の劈掌(へきしょう)という動作です。
劈掌の手の動きは、サーブやアタックと同じですが、身体は反っておらず、立身中正を保ったまま行っているのが分かると思います。
また、手は体の真上を超えて、後ろに引いておらず、腕の軌道も小さいと言えます。
という事は、太極拳や八卦掌は体を反らずとも、また手を後ろまで引かなくとも、別の体の使い方で、同様の力を発する事ができるという事です。
つまり腰に負担をかけずに、サーブやアタックなどの動作を行う事ができます。
この原理を身に付ける事ができれば、バレーやテニスなどで腰を痛めてしまった方でも、もう一度競技を再開できる可能性があると思います。
腰を支点に上体を左右に振る動き
では、次に腰を支点に上体を左右に振る動きを観察してみましょう。
この動きも正確には、左右どちらかに上体をねじってタメを作り、反対側にねじりを解放する運動と言えるでしょう。
代表的なものには、テニス、卓球、野球のバッティング、ゴルフなどがあります。
また野球のピッチングなどは、捻じる動きと反り返しの動きを組み合わせて行っているとも言えます。

一般的な空手やボクシングなどでパンチを打つ動作も根本的には同じ原理です。


人間は、走っている時も、体を左右に振って走っています。
この体を左右に振るという動作は人間特有のもので、他の動物では見られないものです。
ただし、前述したように、背骨は脊椎と椎間板の集合体であり、一つ一つの可動域といったものは、決して大きくはありません。
これは体を左右に振る動作でも同様で、腰椎のどこか一部を過度にねじってしまうと、やはり故障の原因となります。
それに対し、太極拳がどのような動作を行っているかというと、当門の太極拳の場合は、両肩から両膝までを一枚の板と見なす要訣があります。

これは、どういう事かと言うと、太極拳の動作は、肩と膝が同一の方向を向いて行うという事です。
以下は、楊式太極拳の摟膝拗歩(ろうしつようほ)という技法です。
肩と膝の位置や向きに注目してご覧下さい。
いかがでしょうか?後方に右肩が向かう時は、右膝も同じ方向を向いていますし、左肩が前方に向かう時は、左膝も同じ方向を向いています。
という事は、このように体を左右に振る動作でも、腰を支点としないため、腰部への負担はかからないという事です。
また動画の後半部分を見ると、左右に体をねじらずとも、別の体の使い方を用いて、突いている事も分かると思います。
このように、伝統の太極拳が体に良い理由の一つは、一般のスポーツと違い、体に負担をかけずに、同様の効果の運動を行う点が挙げられます。
太極拳で人間本来の動きを進化させる
ここまで、太極拳の動きと、他の動物の動き、あるいは一般的なスポーツの動きとを比較してきました。
本項では、人間本来の動きを更に発展しながら、太極拳独特の動きに注目してみたいと思います。
そのためには、もう一度、太極拳のもっとも特徴的な動作である起勢式の動きを見てみましょう。
手の上下運動と身体を連動させる
この起勢の動きを長年練っていると、手の上下運動と身体を連動して動かせるようになります。
仮に両手(前足)が地面についていれば、四足動物と同じように、四肢と身体が連動した動きになると思います。
この起勢の動きを上下に拡大したものが、劈掌(へきしょう)です。
熊や猫、猿なども、腕を振り下ろし、引っかく事はできますが、おそらく腕だけで振り下ろしていると思います。
手と身体が連動して、手を振り下ろす事ができるのは、人間だけです。(正確には、太極拳の内功を身に付けている人間)

では、逆に下から上へ、手(前足)を振り上げる動作は、どうでしょうか?
熊や猿も手を上げる事はできますが、上げる事によって、攻撃する事はできないと思います。
人間はどうでしょうか?
ボクシングなどでは、アッパーカットといって、下から上へ打ち上げるパンチがあります。

ボクシングのアッパーカットは、基本的には体を左右に振る動きに、下から腰をしゃくり上げる力を加えて打っています。
いわゆる、スポーツや武道で「腰をいれろ」とか「腰を使え」と言われる動作です。
この動作は、テニスなどでも、低いボールを打ち返す際によく見られますが、この体をねじりながら、腰をしゃくり上げる動きは、腰だけでなく膝などにも非常に大きな負荷がかかります。
はっきり言えば、一番腰を痛めやすい動作です。
では太極拳の場合は、どうしているでしょうか?
下の動画は、太極拳の基本技法である白猿献果という技法です。
動画を見ると、身体を捩じらず、純粋に上方へと力を発しているのが分かると思います。
この動きは、体に負担をかける事なく、かつ他の動物には真似のできない人間独特の動きです。
その上で、四肢と体幹部が連動した生物体本来の動きであるため、ある意味、動物的な動きとも言えます。
手の前後運動と身体を連動させる
続いては、手の前後運動と身体を連動させる動きを見てみましょう。
下の動きは、当門の太極拳の基本功である青龍探爪(せいりゅうたんそう)という技法です。
動画を見ると、先ほど紹介した起勢式と同じように体が膨張→収縮しながら、両手が前後に移動しています。
更によく見ると、手の位置はさほど動いておらず、体の中で生じさせた力で、両手を前に押し出しているのが分かると思います。
動画を見て、単純に肩や身体を波立たせたて行うのは間違いです。本当に学びたい方は、正しい要訣や動作を直接学びに来てください。
正しい青龍探爪の練習を継続して行うと、前方へと力を押し出す仕組み(内功)が形成されます。
この青龍探爪の仕組みを歩法によって、前後へと運ぶと以下のようになります。
先ほどの青龍探爪の仕組み(内功)が内在されているのが、分かるでしょうか?
単に体重をかけて押し出すのではなく、腕を押し出す仕組みが働いているのを感じて頂ければと思います。
この手を使って前に押し出す、あるいは引き寄せるといった動作も人間独特のものです。
牛などは、頭(角)を使って押す。あるいは、前方に向かって物を引く事はできますが、手(前足)を使って押す事はできません。

ただし、人間の場合も重い物を押す時は、手を使って押すというよりは、手は固定して、体重をかけて、足で押している事が多いようです。

また、重たい物を引く場合も、手で引くというよりは、足で踏ん張って、体重を後ろにかけて引いているようです。

このように、人間は重たい物を押したり引いたりする時は、手は連結具として用い、体重を押しかけて押したり、引いたりしています。
そう考えると、生物体本来の動きである、四肢と体幹部が連動して、押したり引いたりできるのは、やはり太極拳や八卦掌独特の動きと言えるでしょう。
円運動と身体を連動させる
円運動を行うとなると、ちょっと動物では見当がつきません。(気付いた方がいれば教えて下さい)
以下の動画は、陳式太極拳の基本功である双圏手(当門での名称は、大纏絲)です。
大纏絲の練習を行う事で、手の円圏動作と体を連動させるための仕組み(内功)を形成していきます。
後半は、右方向を前方とした前後の意識を用いて行っています。
この円圏動作を用い、体の側面へと力を運べば、陳式太極拳の「六封四閉(ろくふうしへい)」となります。
円圏動作を用いて体の側面に力を出せるのは、人間だけです。
また先ほどの双圏手の動作に、さらに纏絲(てんし)を加え絞り込んでいくと、楊式太極拳の攬雀尾(らんじゃくび)の動作となります。
このように、手の円圏動作と体を連動して行えるのは人間だけですし、その円圏動作をさらに発展させたものが太極拳の動作です。
この楊式太極拳 攬雀尾のポン(前へ)→リー(後ろへ)の切り返し動作を、後ろへ戻すことなく前へと運ぶ事で陳式太極拳の「懶扎衣(らんざつい)」となります。
懶扎衣の動作を観察してみると、色々な力が組み合わさっているのが分かると思います。
前述した劈掌の上から下へと斬り下ろす動き、青龍探爪の前へ押し出す力、そして円運動を基とした纏絲の動きも見て取れます。
このような複雑な動きができるのは人間だけでしょうし、また太極拳だからと言えるでしょう。
その上で四肢と体幹部が連動した生物体本来の動きですから、力を発している瞬間は、蛇が獲物を襲うような動物的な動きにも見えます。
まとめ
今回は、伝統太極拳が体に良い理由について説明してきましたが、いかがだったでしょうか。
要点をまとめると以下のようになると思います。
- 太極拳の姿勢を身に付け、首や腰への負担をかけない。
- 一般的なスポーツのように、腰部や膝へ負担をかける動作をしない。
- 生物体本来の四肢と体幹部の連動した動きを取り戻す。
- 生物体本来の動きを更に発展させ、太極拳独特の動きを身に付ける。
太極拳の練習では、まず①や②のように、体へ負担のかかる動作を徹底的に排除していきます。
その上で、手先や足先だけで行っている日常の動作から、生物体本来の四肢と体幹部の連動した動きを取り戻していきます。
さらに、生物体本来の動きを発展させ、太極拳独特の動きを身に付けていきます。
その結果として、身体の運動機能は、最良の状態を維持し、人間が持つ最善の動きを可能としていきます。
筋骨の一部のみを使用する事なく、全身が背骨を中心に連動し、気血を全身のすみずみまで運びます。
日常では使用しない部位も稼働していき、内臓や横隔膜も稼働し、肺活量は増え、体の各関節も開放され、意識のおもむくまま身体は動いていきます。
自然にもっとも適した生物体本来の運動を行うため、伝統太極拳は体に良いのです。
他にも伝統太極拳が体に良い理由は、様々なものがあると思いますが、当会の考える理由は、以上のようになります。
長文を最後まで、お読み頂きありがとうございました。
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