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八卦掌の特徴と基本(走圏、換掌、基本功)

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八卦掌の特徴と基本のタイトルロゴ

神秘的なイメージの強い中国武術である八卦掌。

漫画や映画の影響で女性が学ぶカンフーと思われている方も多いと思います。

私は太極拳を15年程度学んだ後、八卦掌を学び始め、気が付くと、そこから更に15年の年月が経ちました。

実際の伝統の八卦掌が、どのようなものか、その特徴と共に走圏、換掌、基本功など、八卦掌の練習方法について紹介してみましょう。

八卦掌とは?

八卦掌は、1800年代中期、清の皇族である粛親王(しゅくしんのう)府に宦官として仕えていた 董海川(とうかいせん)が創始した中国武術の一派です。

太極拳や形意拳などと共に内功を重視する内家拳のカテゴリーとして扱われています。

穿掌や撞掌など、掌を中心とした技法が多用されるため、八卦拳ではなく八卦掌と呼ばれています。

董海川以降の伝承者により、一般にも普及し始めましたが、各派の特徴の違いが大きく、尹派、程派、宋派など各派の八卦掌に分かれて伝承されています。

八卦掌の特徴

八卦掌の特徴としては、まず走圏という円周上を歩く練習法が挙げられます。

八卦掌の走圏の写真
八卦掌の走圏

走圏の種類は、各派で微妙に違いますが、八種類の定式を採用している門派が多く、套路(型)も老八掌や八大掌など、八や八の倍数で構成されている事が多いようです。

套路の動きは、転身動作が非常に多く、型を見ただけでは何をやっているのか分からないような構成となっています。

この謎の多い八卦掌を少しずつ解説していきましょう。

八卦掌と太極拳の違い

冒頭で紹介したように、私は15年以上太極拳を学んだ後、自分で太極拳の教室を始めてから八卦掌を学び始めました。

当初は、八卦掌も太極拳と同じような拳法だろうと思っていましたが、八卦掌も15年以上学んできて、改めて思うのは、高い段階に至れば、確かに共通する原理となりますが、登り口はまったく別の拳法だという事です。

孫禄堂や王樹金の系統など、太極拳と八卦掌や形意拳を併修する門派も多いのですが、併修している門派では、形意拳の影響が大きく、形意拳的な八卦掌や太極拳になっているケースが多いようです。

八卦掌と太極拳の技法比較

具体的な説明の前に、まず、動画を見て頂きましょう。

陳式太極拳のもっとも根幹的な技法である懶扎衣の動画です(34秒)
八卦掌のもっとも特徴的な技法である穿掌(23秒)

どちらも、太極拳と八卦掌でもっとも使用頻度の高い技法です。見比べて見ていかがでしょうか?

一言で言えば、太極拳と八卦掌では、勁力の発力システムが違います

太極拳の場合は、纏絲勁(てんしけい)を用いて、力を伝達させていますが、八卦掌の場合は、纏絲勁も発生させますが、根本的な力は上下の内功によるピストン運動によって生じており、纏絲勁は補助として使用しています。

イメージ的には、太極拳の場合は、纏絲そのもの。八卦掌の場合は、纏絲の中を勁が通っていく感じです。

また太極拳の場合は、落式(終末動作)で若干の開勁(体を開く動作)を用いて、右手に力を集約させますが、八卦掌の場合は開勁は用いず、力を集約させたまま、歩法によって前方へと力を運びます。

まったく同じという訳ではないですが、八卦掌は太極拳よりも形意拳の発力システムに近く、昔日から八卦掌と形意拳の交流が盛んだったのも頷けます。

では、ここからは八卦掌の基本について紹介していきましょう。

八卦掌の走圏(そうけん)

八卦掌と言えば、走圏という位に有名ですが、その意味や理由については、多くは語ってこられなかったように思います。

理由は、秘伝といった事もあるのでしょうが、やはり口頭で説明するのが非常に困難だからでしょうね。

私自身も言葉で表現する自信はないのですが、あえて要点を整理すると、以下の点が挙げられると思います。

走圏の意味
  1. 垂直軸を中心とした内面的な骨格の形成
  2. 蓄勢としての意味と技撃としての意味
  3. 練功法としての意味

順に説明してみましょう。

垂直軸を中心とした内面的な骨格の形成

武術において、正中線や中心軸が大事と言われますが、正確には頭頂部の百会穴から足裏の湧泉穴までを結ぶ垂直線の事を言います。

以下の写真では、その垂直線を表示していますが、どのような点に気付かれるでしょうか?

八卦掌の推磨掌(龍形)に垂直軸を表示した写真
走圏の定式である推磨掌(龍形とも呼ばれます)

頭頂部から尾てい骨までは、胴体と垂直線が重なっていますが、下半身は垂直線と重なっていません。

また正確に言えば、上半身も頚椎や脊椎(背骨)と垂直線が完全に一致しているかと言えば、そうではありません。

つまり正中線とか中心軸というと、単純に背骨であるとか、体の真ん中を通っている線と思っている方が多いのですが、実際はそうではないという事です。

そして、この垂直線というのは、片足に重心が載っている時(単重)に、もっとも明確となります

ちなみに、内家拳全般で要求される「含胸抜背」や「尾閭中正」、「虚領頂勁」などの要訣は、上半身の垂直線を明確にするための要訣です。(この場合も背骨ではありません)

八卦掌は、この中心軸を、縄のように強く明確に鍛えたいがために、上半身をやや捻じり、不動の姿勢を維持したまま、左右の足で単重を繰り返す走圏を行っているという訳です。

その上で、走圏の練習では、この垂直線と両腕をつなげ、全身の内面的な骨格も形成していきます。

その際も、単純に肩関節からつなげるのではなく、沈肩墜肘などの要訣を守り、垂直線と両腕が直接的につながるようにしていきます。

大鵬展翅(だいほうてんし)鷹の意を用いた定式

両腕と共に胸を展開し、垂直軸とつなげ、十字に交わる線(内骨格)を形成する。胸を張らないよう注意する。

練功を継続する事により、腕をより長く使えるようになり、身体内で生じた開勁(開く動作)などの功夫を増大させる。

別称、托天掌(たくてんしょう)の名の通り、天を托し上げ、下から上への力の蓄勢でもある。

八卦掌の腕が、まっすぐのようで、まっすぐでなく、曲がっているようで、曲がっていないのは、指先から垂直線へと結ぶラインを、各定式の理想の状態に維持するためです。

(この場合も、このラインは、腕の中を通る場合もありますし、通っていない場合もあります)

この事を「曲中求直(きょくちゅうきゅうちょく)」曲線の中に直線を求めると言い、垂直線を立てる際と共通しています。

内面的な骨格については、【内功について】 のページで、詳しく解説しています。

その他、走圏には、平起平落、裡直外弧、膝下前行(股関節ではなく、膝から下で歩く)など、様々な要訣がありますが、それらを正しく理解し、実践されている老師の指導が必要不可欠となります。

蓄勢としての意味と技撃としての意味

続いて、走圏の「蓄勢としての意味」と「技撃としての意味」について紹介します。

蓄勢というのは、蓄勁とも言われます。いわゆる力を蓄えている状態です。技撃の際の起式(起こりの姿勢)となります。

技撃というのは、発勁といって良いでしょう。力を発する事です。

八卦掌の場合は、走圏のそれぞれの定式が技撃の際の落式(終末動作)ともなっています。

八卦掌の下沈掌走圏の写真
下沈掌(かちんしょう)熊の意を用いた走圏

頚椎から頭頂部にかけては、上へ吊し上げ、腰背部(腎臓)は下へと沈める。両肩は開いて沈め、肘から指先は少し捻じって下へ伸ばす。

下沈掌の名の通り、意と気血を沈め、基本功で紹介する双撞掌や熊形翻身の力を蓄勢する。

また沈肩や亀背など練功法としての意味合いも強く、腰背部を特に強健にする。

八卦掌の獅子張口の写真
獅子張口(ししちょうこう)獅子が口を広げ、球をくわえている定式です。

内面的には、片腕は垂直軸の延長方向である頭上へ掲げ、もう片方の腕は水平方向へ伸ばす。

両腕でボールを抱える意を持ち、前方と上方への十字のラインを形成する。

この十字のラインは、挑打などの技法の落式となります。

背中を強化し、獅形掌の代名詞である「獅形翻身」や「獅子揉球」などの蓄勢となっています。

先に紹介した托天掌や下沈掌が練功法や蓄勢としての意味が強いのに対し、獅形掌は技の基となる定式です。

詳しくは、次項の「換掌」と「基本功」で紹介しますが、八卦掌は、走圏時の定式が、蓄勢であり、同時に技撃の際の落式となっています。

練功法としての意味

走圏の意味の最後として、練功法としての意味について説明します。

ただし、本項の一番目で紹介した垂直軸を中心とした内面的な骨格を作るというのが、練功法として大前提で、その上で、より発力の威力を高めたり、より腕を長く使えるようにしていきます。

八卦掌の指天挿地(してんそうち)の走圏の写真
八卦掌の指天挿地(してんそうち)

片腕は天に伸ばし、もう片方の腕と腰背部は大地へと沈める。

胴体部の伸縮機能を増大させ、後に紹介する劈掌(へきしょう)などの威力を増大させる。

八卦掌の単勾式走圏の運勁図
八卦掌の単勾式走圏の運勁図

左腕を勾手(単勾)にしてねじり、胸を展開する事で、右腕へ螺旋状の力を伝達させる。

開、圧、穿などの力を養成(蓄勢)し、前腕をはじめ、全身を強く強靭にしていきます。

八卦掌の換掌(かんしょう)

換掌というのは、走圏時の姿勢を八卦掌独特の旋回動作により、身体を左右に転換する動作の事を言います。

次に紹介する基本功と共に八卦掌独特の力の出し方や身法を身に付けていきます。

葉底蔵華(ようていぞうか)龍形換掌

葉底蔵華は、八卦掌のもっとも基本的な走圏の形である龍形の換掌です。(34秒)

走圏の練習で得た垂直軸を中心に、左右に旋回動作を行います。旋回によって生じた力を、そのまま水平方向へと伝えます。

八卦掌のもっとも根幹となる力を生成する功法です。

旋回動作で生じた力を用いて防御技法としても使えますし、技撃としても左右への水平打ちとして使用可能です。

昔、馬貴派八卦掌の李老師に、葉底蔵華で腕を打たれた事がありますが、非常に痛かったのを覚えています。

また基本技法である反背捶の基となる動作でもあります。

八卦掌の反背捶の写真
旋回する力を後方へと発する反背捶(はんはいすい)

動画の後半にあるように、旋回運動で生じた力を擺歩で運べば、投げ技や体当たりとして応用する事も可能です。

中心軸を縄のように強くする練功法としての意味もありますし、八卦掌の中軸をなす練習法です。

熊形転身(ゆうけいてんしん)

熊形転身は、走圏の下沈掌の換掌の動作です。(50秒)

下沈掌で下へと沈めた力を、旋回動作により、左右に転換します。

その際、手形にはこだわらず、純粋に垂直軸を中心とした旋転動作を行います。背中を反らないように注意します。

技法的には、扣歩を用いて翻身し、熊が爪で引っ掻くような技法となります。

練功法としては、特に腰背部を強化します。

獅形翻身(しけいほんしん)

獅形翻身は、走圏の獅子張口(ししちょうこう)の換掌です。(44秒)

水平の旋回運動で生じた力を縦回転の力へ変換する功法です。

ただし、無理に縦回転をさせようとせず、脊椎は純粋に旋回運動を行います。

この動作は、転身探掌などの他、基本功で紹介する、撩掌や挑打などの力を発生させます。

単勾換掌(たんこうかんしょう)

単勾換掌は、八卦掌の単勾式の換掌です。(33秒)

ここでは、旋回運動で生じた力を開く力(勁)として使用しています。

楊式太極拳の野馬分鬃(のまぶんそう)と共通した原理の技法です。

燕(つばめ)の意を用い、後に蛇の意識も用います。

開勁を用いた楊式太極拳の野馬分鬃

八卦掌の基本功

八卦掌の基本功は、走圏の各定式の形から力を出す動作や八卦掌独特の身体の使い方を学んでいきます。

代表的な基本功を紹介していきましょう。

双撞掌(そうどうしょう)

八卦掌の基本功 双撞掌(10秒)

双撞掌は、下沈掌(熊形)で養成した下へ沈む力を前方への力に変換する基本功です。

下へ沈めた力を腰背部を通して、直接的に両腕へと伝えます。

太極拳の双按と似ていますが、見比べて見ると太極拳と八卦掌の違いが良く分かると思います。

同じく前方へと力を按出する太極拳の双按(64秒)

まず立ち方が違いますね。太極拳の場合は明確な弓歩で体の正面へ力を運んでいます。

八卦掌の場合は弓歩にならず、八卦掌独特の偏馬歩を用いています。

力を出す方向も八卦掌の場合は、正面というよりは、やや斜め方向となっています。

そして姿勢はどうでしょう?

八卦掌のほうは、発力の瞬間に、顔はややうつむき、背中もやや丸みがかっていますから、太極拳ではありえない姿勢です。

それでも、背中を通って、力が昇っていく様子は、感じて頂けるのではないでしょうか。

だからと言って、顔をうつむき、背中を丸めて真似してみても、撞掌の習得はあり得ないと思います。

撞掌を身に付けたければ、まず走圏や単換掌などの練功によって、内面的な骨格が出来上がっている必要があります。

その上で、下沈掌などによって、気血を下に沈め、力として運用できる準備(蓄勢)が必要です。

撞掌で生じた力は、先に紹介した穿掌や挑打など、八卦掌の根幹的な技法の核となります。

龍形撞掌(りゅうけいどうしょう)

八卦掌の基本功である龍形撞掌の写真
下から上へと向かう力を左右に運ぶ龍形撞掌

龍形撞掌は、馬貴派八卦掌の双換掌に出てくる技法ですが、技法としてよりも功法としての意味合いが強いため、基本功の項目で紹介します。

上記で紹介した双撞掌の力を体の両側面へと運ぶ功法です。

後に紹介する単撞掌への過渡的な練習法となりますが、この段階で片腕へと力を運ぶ仕組み(内功)を身に付ける事が、単撞掌の習得の鍵となります。

左右龍形撞掌のGIF画像
左右へ力を転換して運ぶ龍形双撞掌

開掌(かいしょう)

八卦掌 基本功 開掌(19秒)

開掌は、走圏の大鵬展翅(托天掌)などで得た体を展開する功夫を、より具体的に身法で行ったものです。

力は丹田から発し、お腹を切り開くようにして、両腕へと力を伝えます

この動画では、纏絲勁を発生させているため、左右で若干の時間差が生じていますが、初心者のうちは両手を均等に開くよう練習すべきです。

八卦掌に限らず、開掌を基とした技法は多数存在します。

動画では定歩で行っていますが、八卦掌的には、扣擺歩を用いて転身しながらの練習も行います。

双撩掌(そうりょうしょう)

八卦掌の基本功である双撩掌の写真
双撩掌は、開掌で生じた力を下から上への力に転化した基本功です。

写真は、双撩掌の変化である単勾撩掌ですが、同じように両手を下から上へと切り上げています。

撩掌系の技法は、八卦掌では非常に多く、その根幹となる技法です。

八卦掌では、撩掌からの穿掌や挑打など、撩掌から展開する技法も多く存在します。

双圧掌(そうあっしょう)

圧掌は、撩掌と相反する功法(力)です。撩掌が下から上への力であるのに対し、圧掌は上から下へ制圧する力となります。

圧掌にも単と双があり、単圧掌は技法として、双圧掌は功法としての意味合いが強くなっています。

また、双圧掌にも両手を同じ方向に差し出すものと、両手を左右に展開して行うものとがあります。

ここでは、左右に展開する双圧掌を紹介します。

八卦掌の基本功である双圧掌の変化である双劈捶の写真
写真は、双圧掌と同じ原理を表現した双劈捶です。

両手を上から下へと展開しながら打ち下ろす功法です。

その際、走圏の大鵬展翅の時と同じように、両腕は左右に引っ張られる意念をもって行います。

雲片掌(ゆんぺんしょう)

八卦掌の基本功 雲片掌(30秒)

雲片掌は、ここまで紹介した基本功とは異なり、力を発生させるというよりは、身体の柔軟性を高め、八卦掌独特の身法と手法を身に付けるための功法です。

後に学ぶ套路や掌法で、雲片掌の要素がところどころで出てきます。

獅子揉球(ししじゅうきゅう)、獅子滾球(ししこんきゅう)

八卦掌の基本功(内功)である獅子揉球(66秒)

獅子揉球は、胸の前にボールを作って縦回転させ、手と身体を連動させるための功法です。

感覚ができてきたら、ボールを転がすように、前後に意識と動作を拡大させていきます(獅子滾球)

八卦掌の様々な技法の基となる重要な基本功です。

まとめ

今回は、八卦掌の特徴と基本という事で、走圏、換掌、基本功までを紹介してみました。

八卦掌の練習体系は、非常に独創的ですが、走圏と換掌、そして基本功へのつながりによって、八卦掌独特の姿勢や歩法、力の出し方、身法などを身に付けていきます。

その上で、八卦掌の基本技法や套路を学んでいきます。

本記事の続編である八卦掌の基本技法と套路では、陰陽や四象(ししょう)の原理を基に、各技法や套路の成り立ちについて解説しています。

八卦掌の套路である単換掌のGIF画像
八卦掌の基礎套路である単換掌
八卦掌の実用技法である蓋掌(がいしょう)
八卦掌の双換掌の歩法を表したイラスト
八卦掌の実用時の歩法についても解説しています。

当会で指導している八卦掌については、下記記事にて紹介しております。

興味を持った方がいれば、体験オンラインでの指導もしております。

今回も最後までお読み頂きありがとうございました。

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