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陳式太極剣の基本

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陳式太極剣の座盤反撩の写真
陳式太極剣

太極拳の剣と刀の基本では、一般的な中国剣術や刀術の基本功を紹介しました。

本ページでは、陳式太極拳の剣術套路である陳式太極剣の特徴と基本功、基本技法に特化して紹介します。

陳式太極剣とは?

陳式太極剣は、陳式太極単剣や陳氏太極剣、陳家剣とも呼ばれ、陳式太極拳の発祥地である陳家溝で伝承されてきた剣術套路であり、その練習体系です。

陳式太極剣の特徴

陳式太極剣の最大の特徴は、一般的な中国の剣術や刀術が主に単手(片手)で剣を操作するのに対し、陳氏太極剣は双手(両手)で操作するところにあります。

ただし、日本の剣術のように柄(つか)を両手で握るのではなく、左手の剣指を右手首に添えた状態で剣を操作します。

左剣指を右手首に添えている陳式太極剣の写真
陳式太極剣では、左剣指を右手首に添えて行う技法が多い。

具体的な動きは、後述しますが、実際に双手で剣を操作してみると、非常に窮屈な感想を持つと思います。

理由は、双手の状態というのは、ある意味「手枷(てかせ、手錠)」をはめられている状態と言えるからです。

手枷をはめられている訳ですから、一般的な剣と比べると、腕自体の動きが極端に制限されます。

そして、腕自体の動きが制限されるからこそ、陳氏太極剣は、歩法を用いて剣を運び、内功をもって剣を操作する独特の剣術体系となった訳です。

形意拳の達人である郭雲深(かくうんしん)は、刑務所で手枷足枷を付けた状態で拳を練り、達人の域に達したという逸話がありますが、偶然にも陳家溝の人達は、剣で同じ効果を得ていたとも言えます。

陳氏の太極剣から太極拳が生まれた

正確には、太極剣から太極拳が生まれたという訳ではありませんが、太極拳の成立には、陳家溝で伝承されていた剣の技術が大きく影響したのは間違いないと思います。

理由は、前述したように双手で剣を扱うところにあり、双手で剣を扱うからこそ、内功(身体内面の体を動かす仕組み)が形成され、かつ内功を稼働させななければ、剣の操作ができないからです。

元々、陳家溝では、剣や刀以外にも春秋大刀や槍術などの武器術が非常に発達していました。

つまり陳家溝の人達は、武器術の鍛錬により、内功の発達した人が多かったと思います。

その内功の発達した人達が素手の拳法を学ぶとどうなるでしょうか?

おそらく、腕自体を内功によって操作するようになると思います。

この腕を内功によって操作する拳法が、他の拳法群とは一線を画した太極拳の基であると言えるのではないでしょうか。

腕を内功(纏絲勁)によって操作する陳式太極拳 懶扎衣

文中に出てくる内功については、太極拳の本質、内功についてのページで、詳しく解説しています。

陳式太極剣の基本功

では、ここからは具体的な陳式太極剣の基本功を紹介していきましょう。

基本功を練習する事で、剣を操作するための内功の仕組みを形成していきます。

掛剣(かけん)

掛とは、引っ掛けるという意味ですが、具体的には、剣を地面に向けて上から下に突き刺し、そのまま立円を描く軌道となります。

掛剣を練習する事により、剣との連帯感を養ない、掛の軌道で剣を操作するための内功を養成します

下の動画は、一般的な剣や刀の掛の動きです。

一般的な掛刀の動作では、主に片手で剣を操作します。

続いて、陳式太極剣の掛剣の動作を紹介しましょう。

陳氏太極剣の掛剣は、左剣指を右手首に添えた状態で行います。

見比べて見ると、一般的な掛剣のほうが、活動的で腕自体の可動範囲も大きいのに対し、陳氏の掛剣は、慎重に振っている印象があるのではないでしょうか?

双手で行う陳家の太極剣は、まず腕自体の動きが極端に制限されるため、体の動きも同様に制限されます。

実際に練習してみると分かりますが、非常に窮屈な感想を持つと思います。

私自身が陳氏太極拳の剣を学び始めた当初は、脇や背中に痛みを感じ、違和感を覚えました。

それでも、練習を通じて、もっと緩めてやってみようとか、姿勢や動作を細かく修正していくうちに、痛みや違和感は消え、少しずつ要領が掴めてきました。

その要領を一つ紹介すると、剣を操作するというよりも、剣の動きに体のほうを合わせるという事です。

掛剣の場合であれば、剣先が落ちていく動きに、体のほうを合わせていきます。

言ってみれば、捨己従剣といったところでしょうか。

そういった丁寧な稽古を積んでいく事で、腕自体の動きが極端に制限された状態でも、剣を操作するための内功が、少しずつ形成されてきました。

後に紹介しますが、この掛剣の動きは、太極拳の各技法にも多大な影響を与えます。

劈剣(へきけん)

劈とは、斧を振り落とすように、上から下に切り落とす動作の事を言います。

上から下へ振り落とす動作からは、非常に大きい力が生じます。

日本の剣道でも、振りかぶっての面打ちを最初に学びます。

劈法についても、一般的な劈刀と陳式太極剣の劈剣を見比べてみましょう。

一般的な劈刀では、沈身の力を刀に伝え、斬り落とします。

つまり、体で剣を振ります。

それに対し、陳式太極剣の劈剣は、剣自体の重さに体を合わせていきます。

その結果、剣の動きに独特のなめるような動きが生じ、劈との合わさったような軌道となります。

点とは剣先で点撃し、相手の手首を上からこすり切るような技法の事です。

撩剣(りょうけん)

撩とは、劈とは反対に下から上へと切り上げる動作を指します。

撩の動きは、陳式太極剣で多用されます。

剣を斬り落とす劈の動作は、ボールを投げたり、ラケットを振り落としたりと、日常生活でも行う事があります。

それに対し、下から上へ斬り上げるの動きは、日常生活で行う事は、ほとんどないと思います。

それゆえ、丁寧に丁寧に練り込んでいく必要があります。

最初は剣先を目で追うようにし、じっくりと撩の軌道の内功を練ります。

内面的には、前述した掛剣の回転とは逆回転の内功を形成します。

平斬・撥草尋蛇(はっそうじんだ)

剣で水平に斬る動作を平斬(ピンザン)と言います。

一般的な中国の刀術では、纏頭裹脳(ちゃんとうかのう)という基本功で平斬を学びます。

纏頭(ちゃんとう)とは頭をまとう、裹脳(かのう)は、脳をくるむといった意味です。どちらの技法も刀が頭上を通り、螺旋の力を刀へと伝えます

まず、纏頭裹脳の動きを動画で見てみましょう。

纏頭裹脳(左右)

纏頭裹脳では、頭上で刀を回し、螺旋の力を用いて刀を左右へと振ります。

ところが、剣では、この纏頭裹脳を使う事ができません

理由は、剣の場合は、背刀部にも刃がついているため、纏頭や裹脳を行うと、背刀の刃で自分の頭を切ってしまう可能性があるからです。

では、陳氏太極剣では、どのように平斬を行うのかというと、主として二つの方法があります。

一つは雲片剣(ゆんぺんけん)と言い、身法を用い、剣は頭上は通らず、やや仰身して顔の前を通り、手首の返しを用いて斬る技法です。

雲片剣は、八卦掌の基本功である雲片掌の動きを用い剣を操作します。

陳式太極剣では、白猿献果という技法で採用されています。

もう一つは、撥草尋蛇の身法で内功を練り、歩法と併用して行います

一般的に撥草尋蛇という技法は、草むらに潜む蛇を探すように、地面すれすれを掃くように行いますが、陳氏太極剣の撥草尋蛇は、ほぼ水平の軌道を通ります。

ここでは、基本功としての撥草尋蛇を紹介しましょう。

陳式太極剣 基本功 撥草尋蛇

撥草尋蛇の要訣としては、ここまで紹介した陳式太極剣の基本功と同じく、体で剣を振るというよりも、剣の動きに合わせて、左右への重心移動を行います

動画では、左に斬った後、手首を返して、右に斬り返していますが、手首を返さずに背刀で右に斬る練習も行います。

青龍擺尾(せいりゅうはいび)

青龍擺尾は、上で紹介した撥草尋蛇と撩の動きを組み合わせた剣の基本功です。

青龍が尾を振り回すがごとく、剣は横8の字(∞)の軌道となります。

陳式太極剣 基本功 青龍擺尾

青龍擺尾は、太極拳の代表的な技法である雲手(うんしゅ)と同様の内功を用い、雲剣式と呼ばれる事もあります。

太極拳の雲手

陳氏太極剣の技法(活歩練習)

上記で紹介した陳式太極剣の基本功と、前後や斜行、転身、跳歩などの歩法を組み合わせたものが、陳氏太極剣の基本技法となります。

本項では、基本功と歩法を組み合わせた活歩練習と、その動きから生まれる代表的な技法を紹介します。

掛剣系の技法

まず、基本功で紹介した掛剣と歩法を組み合わせた活歩練習を見てみましょう。

この動画では、基本功の掛剣を行いながら、その場で足を転換する換歩、そして前進する進歩、後退する退歩を行っています。

別称 【車輪剣】、鉱山用の掘削機のように、剣は立円を描きながら、前進後退します。

鉱山用の掘削機
鉱山用の掘削機(Mikes1978によるPixabayからの画像)

陳式太極剣の掛剣系の技法としては、以下のようなものがあります。

陳氏太極剣の展翅点頭という技法の写真
陳氏太極剣の展翅点頭

掛剣で相手の下方への攻撃を受け流し、そのまま立円で転換し、反撃する技法。

陳式太極剣の羅漢降龍の写真
陳式太極剣の羅漢降龍

上から下への掛剣の軌道で相手を突き刺します。

他にも、掛剣では、次に紹介する倒歩を用いた練習も行います。

劈剣系の技法

劈剣系の技法は多数ありますが、ここでは基本功で紹介した烏龍擺尾(うーろんはいび)の活歩練習を見てみましょう。

烏龍擺尾(うーろんはいび)

倒歩(交差)しながら、移動する烏龍擺尾の活歩練習

基本功の項で紹介した青龍擺尾(せいりゅうはいび)は、撩系の技法ですが、烏龍擺尾は劈系の技法です。

陳式太極剣の烏龍擺尾の写真
烏龍擺尾は、烏龍が尾を振り回すように剣を振り落とします。

燕子啄泥(えんしたくでい)

陳氏太極単剣 燕子啄泥

一般的な点剣の技法は、剣の先端でチョンと突く技法ですが、陳式太極剣の点剣は、劈の要素が強いため劈系の技法として紹介します。

燕が泥をついばむ動作が名称の由来です。

陳式太極剣に採用されている劈系の技法には、他にも黒熊翻背(こくゆうほんはい)や翻身下劈剣など、後方の相手に翻身して斬り落とす技法などがあります。

陳式太極剣の黒熊翻背の写真
陳式太極剣の翻身しての劈剣

撩剣系の技法

撩剣系の技法も、前進後退を繰り返す活歩練習から見てみましょう。

護膝剣(ごしつけん)と倒巻肱(とうけんこう)

撩剣は、掛剣と相反する技法で下から上へ斬り上げながら、前進後退します。
陳式太極剣 倒巻肱の写真
基本功の撩剣をしながら前進する技法を護膝剣(ごしつけん)、後退する技法を倒巻肱(とうけんこう)と言います。

どちらの技法も、主にこちらの膝などを狙ってきた攻撃に対し、歩法でよけながら、相手の手首などを斬り上げます。

陳式太極剣に登場する他の撩系の技法としては、後方へ撩を行う反撩という技法もあります。

陳式太極剣 座盤反撩(展翅点頭の前半部分)

平斬系の技法

平斬系の技法の代表例としては、基本功で紹介した撥草尋蛇(はっそうじんだ)の活歩練習を紹介します。

撥草尋蛇(はっそうじんだ)

陳式太極剣の特徴である歩法をもって剣を運び、内功をもって剣を操作するを具現化している撥草尋蛇

斜飛式(しゃひせい)と海底搒月(かいていほうげつ)

平斬系の動きと撩系の動きを組み合わせて行う斜飛勢(しゃひせい)や海底搒月(かいていほうげつ)などの技法もあります。

陳式太極剣の斜飛式と海底搒月
陳式太極剣の斜飛勢の写真
斜飛勢は、開勁を用い、下から上への軌道で背刀部で斬ります。楊式太極拳の野馬分鬃と同様の身法を用います。

刺剣系の技法

弓歩刺剣(きゅうほしけん)は、本来は基本功の欄で紹介する予定でしたが、套路にもそのままの形で採用されているため基本技法として紹介します。

前半は、平剣を水平に突き刺す弓歩刺剣、中盤は跟歩を用いて行う白蛇吐信、後半は套路の白蛇吐信の動作を行っています。

弓歩刺剣は内容的には、楊式太極拳の基本功である弓歩双按の力を剣先へと伝える技法です。

楊式太極拳 基本功 双按

陳式太極剣には、刺剣系の技法も多数ありますが、代表的な技法を紹介します。

陳氏太極剣の青龍出水の写真
刺剣系のもっとも代表的な技法である青龍出水(せいりゅうしゅっすい)

歩法は斜行しつつ、相手の中心を平剣で刺します。

独立した状態で相手の下方を刺す 仙人指路(せんにんしろ)

他にも、刺剣系の技法としては、斜め上方や斜め下方を刺す技法などが陳式太極剣にはあります。

まとめ

今回は、陳式太極拳の剣術套路である陳式太極剣の特徴と基本功、基本技法に特化して紹介してみましが、いかがだったでしょうか?

私自身が陳氏の太極剣を学んだのは、もう20年近く前になります。

当時の私は、まだ武器術に対して、あまり興味がわかず、基本功や基本技法、そして套路を学び終わった後は、ほぼ放置状態でした(一番ダメなパターンです)

その後、10年ほど前から、鄭志鴻老師に古伝太極剣を学ぶ機会があったり、馬貴派八卦掌の李保華老師に八卦大刀を学ぶ機会があったり、また別の師範から古い時代の龍行剣を学ぶ機会があったりと、不思議と武器術を学ぶ機会に恵まれ、少しづつ剣に対しての知識と理解が進んできました。

当会で指導している中国武器術は、中国武器術の種類をお読み下さい。

そういった折、久しぶりに陳氏の剣を練習してみたところ、他の剣や刀とは違う感覚を得、古い練習ノートを引っ張り出して、ここ数年は一人で練習していました。

陳式太極剣の特徴は、本文で示した通り、双手で剣を扱う事で、腕や身体の動きを制限し、制限されるからこそ、身体内面の内功が形成され、内功を強化し、歩法によって剣を運ぶ戦術にあります。

また陳式太極剣の内功を得る事で、陳式太極拳の功夫が上がるだけでなく、推手の技術も上がると思います。(陳式太極剣と推手の内功が共通しているため)

陳式太極剣の資料は、日本ではまだ少ないようです。

拙文が皆さんの太極拳ライフの手助けとなれば幸いです。

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