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中国拳法の蹴り技(基本編)

太極拳の分脚の応用例としての膝蹴りの写真

本記事では、中国武術(太極拳や八卦掌)の蹴り技の基本概念、種類、使用法を紹介しています。

中国武術の蹴りの基本概念

私の知る限りですが、太極拳や八卦掌に、キックボクシングのように、一定の距離を保ちながら蹴り合うという概念はありません。

では、どういう場合に蹴り技を用いるかと言うと、遠距離では、相手の侵攻を止める。または、相手の反応を引き出す

そして、中距離での蹴り合いはなく、近距離の場合は、手技と併用し、相手を拘束して蹴ります。

まとめると、以下のようになります。

中国武術の蹴りの基本概念
相手との距離基本的な戦術
遠距離相手の侵攻を止める
相手の反応を引き出す
中距離蹴り合わない
近距離手技と併用し、相手を拘束して蹴る
空手の組手の写真
中国武術には、空手やキックボクシングのように、蹴り合うといった発想がない。

太極拳や八卦掌の蹴りの種類

太極拳や八卦掌で用いられる蹴りの種類は大別すると、直線的な蹴りと円を描く蹴りの二種類です。

また、それぞれの基本となる蹴りは、直線的な蹴りが二本、円を描く蹴りも二本の計四本となります。

随分と少なく感じますが、実際にはそれらが組み合わさり、また手技と併用する事で、多種多様な蹴り技へと発展していきます。

太極拳や八卦掌の蹴りの種類
蹴りの種類技法名
直線的な蹴り挿脚(分脚)
蹬脚
円を描く蹴り擺脚
里合脚

順に紹介していきましょう。

中国武術の直線的な蹴り

直線的な蹴り技の代表例として、挿脚(そうきゃく)と蹬脚(とうきゃく)を紹介します。

挿脚(そうきゃく)

挿脚は、陳式太極拳での技法名で、楊式太極拳では分脚(ぶんきゃく)と言います。

挿には、挿入する。差し込むの意味があり、主としてつま先を用い、相手に差し込むような蹴りの総称です。

陳式太極拳 挿脚(後半は、スーパースローで遊んでいます。すいません)

套路の動きでは、上へ蹴り上げていますが、実用時は、つま先を相手にめり込ませるように蹴ります。

八卦掌 穿脚(せんきゃく)

八卦掌のつま先を使った蹴りは、手技の穿掌と併用され、穿脚(せんきゃく)と言います。

八卦掌の穿脚、前半を中段、後半は上段を蹴っています。

套路や単式練習では、動画のように手脚を同時に放ちますが、実用時は若干の時間差をおいて発します。

八卦掌のつま先を使った蹴り技である穿脚(せんきゃく)の写真
上段の穿脚、 上段を狙う場合は、目とのどを同時に狙います。

蹬脚(とうきゃく)

蹬には、踏む、踏みしめるの意味があり、技法的には踵で踏み込むような蹴り技の総称です。

太極刀の架刀蹬脚の写真
三十六式太極刀 架刀蹬脚。

刀や槍の套路には、写真のように槍や刀を頭上にかかげ、蹬脚を行う架式があります。

理由は、蹬脚は本来、相手に突き刺さった槍や刀を、相手を蹴飛ばして、引き抜いていた事に由来があるそうです。

それ故、相手の腕を槍や刀に見立て、相手を固定して蹴る 中国拳法独特の蹴り技が発展していったのだと思います。

八卦掌の蹬脚

八卦掌の蹬脚の写真
八卦掌の蹬脚は、体を後ろに傾け、蹴り足と上体が水平(Tの字)になるようにして蹴ります。

馬貴派八卦掌の李老師に蹬脚を習った時は、立身中正を維持する太極拳の蹬脚とは、あまりにもかけ離れていて、当時は疑問に思ったものでした。

意味としては、武器を持った相手と対峙する際などに、相手の刃物が届かないよう、少しでも遠くから蹴る技術が考案されたのではと思います。

同じ踵を用いた蹴り技でも、門派によって、ずいぶんと発想が違うものです。

中国武術の円を描く蹴り

円を描く蹴り技の代表例として、擺脚(はいきゃく)と里合脚(りごうきゃく)を紹介します。

擺脚(はいきゃく)

擺脚は、内側から外側へ弧を描く蹴り技の総称です。

門派によっては、外側に向かって旋回する事から、外旋脚とも呼ばれます。

擺脚の基本単式。

里合脚(りごうきゃく)

里には、内側、裏側の意味があり、合には合わさる、閉じるの意味があります。門派によっては内旋脚とも呼ばれます。

技法的には、外側から内側に円を描き、足の内側を使って蹴る技法の総称です。

里合脚には、大きく円を描く大旋と、小さく引っ掛けるように蹴る小旋があり、大旋は掛面脚、小旋は単に掛脚とも言います。

太極拳の里合脚の単式練習。前半は大旋、後半に行っているのが小旋です。

中国拳法の蹴りの使用例

蹴りの基本概念で説明したように、太極拳や八卦掌には中間距離で蹴り合うといった発想がないため、遠距離と近距離に絞った使用例を見ていきましょう。

遠距離での蹴り

遠距離で蹴りを用いる用途は、以下の二点です。

  • 相手の侵攻を止める
  • 相手の反応を引き出す

順に見ていきましょう。

相手の侵攻を止める蹴り(蹬脚応用例)

相手の侵入を止める場合は、主として蹬脚を用い、半歩下がる、もしくは前足を後ろへ換歩して行い、空間を作った上で蹴ります。

バックステップし、相手の膝を蹴っている写真
相手が侵攻してきたら、左足を半歩後退させ、空間を作った上で、相手の膝を蹴ります。
相手の腹部を蹬脚で蹴っている写真
腹部を蹴る場合は、左にサイドステップし、相手の攻撃線を避けた上で蹴ります。
右足を退歩し、左蹬脚を蹴っている写真
サイドに回る余裕がない場合は、前足(右足)を後ろに換歩し、相手の攻撃を防御しながら左足で蹴ります。

上記で紹介した技法は、いずれも防御的な技法で、威力は求めず、蹴り足の着地と共に歩法を用いて相手に密着して反撃します。

相手の反応を引き出す蹴り

人間は、相手にされた事を同じように返す習性があり、足を蹴られたら足を蹴り返し、顔を蹴られたら顔を蹴り返そうとします。

その習性を利用し、相手の次の行動を限定させた上で、歩法を用い密着して反撃します。

相手のすねを蹴ると、相手もすねを蹴り返そうとしてきます。

また、わざと相手の胸あたりを蹴り、相手がその蹴り足を捕らえようとする反応を引き出した上で、歩法を用いて密着する戦法もよく用いられます。

近距離での蹴り

近距離での蹴り技は、手技と併用し、密着した状態で、相手を拘束して行います。

分脚(ぶんきゃく)の応用例

楊式太極拳 分脚(ぶんきゃく)の使用例
相手の右拳攻撃を左圏手で巻き込み、頭部を押さえ、捕捉した上で蹴ります。
楊式太極拳の分脚の応用例として膝蹴りを用いた写真
実際には、膝蹴りとして使用される事も多いです。

いずれにしても、相手の左腕と頭を捕捉した上で行います。

分脚には、相手を背面側に崩して蹴る用法もあります。

分脚の背面側に崩す応用例
相手の右拳を捕らえ、左掌で相手の頭部を押さえます。ここまでの動きは、太極拳の単鞭の動きです。
太極拳の単鞭の応用例の写真
太極拳の単鞭の応用例

単鞭について、詳しくは、こちら のページをご覧下さい。

相手を背面側に崩し、分脚を蹴っている写真
相手の頭部を押さえたまま、後頭部をつま先で蹴ります。

この状態から、相手の尾てい骨を狙ったり、相手の右足を刈って投げる場合もあります。

相手を背面側に崩し、膝蹴りをしている写真
この応用例も、膝蹴りとして用いられる場合が多いです。

擺脚(はいきゃく)の応用例

擺脚にも、様々な使用法がありますが、ここでは擺脚を用いた投げ技を紹介しましょう。

擺脚を応用した投げ技の写真
相手の膝横に軽く擺脚し、そこを支点に捋(リー)で相手を引き崩し、投げ倒します。

写真だと単純な梃子の応用に見えますが、実際には内功による螺旋状の力がなければ、技はかかりません。

若い頃は、色々と無茶な擺脚の応用を練習していましたが、年を取ってくると、だんだん地味な用法例になります(^_^;)

里合脚(りごうきゃく)の応用例

里合脚にも様々な用法がありますが、ここでは、相手の背面に回り込み、相手の顔を押さえての蹴りを紹介します。

相手の右拳攻撃を防ぎ、右足を自分の左側面へ差し出している写真
相手の右拳攻撃を防ぎ、右足を交差させ自分の左側面へ差し出します。

ちょうど八卦掌の走圏のような歩法です。

左足を大きく扣歩して相手の背面に回り込んでいる写真
右足を軸に、左足を大きく扣歩し、相手の背面に回り込みます。

扣歩…八卦掌を代表する歩法の一つ。外側から内側へ弧を描く歩法。

相手の頭部を下に押さえ付け、里合脚で蹴っている写真
相手の頭部を下に押さえ、つま先や足の内側で里合脚を蹴ります。

その他の蹴り技

中国武術には、套路(型)上は、技法名の無い蹴り技も多数存在します。

代表的な技法を紹介しましょう。

斧刃脚(ふじんきゃく)

斧刃脚の解釈は、門派によって様々ですが、基本的には斧を振って木を倒すように、相手のすねや膝を狙います。

相手の右拳攻撃を掤(ポン)勢で防いでいる写真
相手の右拳攻撃を右掤(ポン)勢で防ぎ、
捋(リー)勢で相手を引き込みすねを蹴っている写真
捋(リー)に転ずると共に、相手のすねを斧を振るように蹴ります。
金剛搗碓を応用した蹴り技の写真
応用として、相手の膝を踏み潰すような蹴り方もあります。

この場合は、木をへし折るようなイメージです。

金剛搗碓を応用した膝蹴りの写真
距離が近ければ、やはり膝蹴りへと変化します。

ここで紹介した技法は、陳式太極拳の金剛搗碓に含まれる蹴法です。

金剛搗碓について、詳しくは、こちら のページをご覧下さい。

八卦掌 穿脚(せんきゃく)

動画で紹介した八卦掌の穿脚の応用例です。

相手の右拳攻撃に対し、右穿掌で交差している写真
相手の右拳攻撃に対し、左に再度ステップし、穿掌で交差します。
相手を捕らえる(帯手)と同時に、腹部を穿脚で蹴り込んでいる写真
相手を捕らえる(帯手)と同時に、腹部を穿脚で蹴り込みます。

写真だと単純に見えますが、実際には微妙な時間差(拍子)を用います。

穿脚で相手の膝を蹴っている写真
状況によっては、相手の膝やすねを狙います。

掃脚(そうきゃく)

掃(そう)の文字は、掃除の掃です。つまり掃くような蹴り技の事です。

基本技法としては、前掃腿(ぜんそうたい)や後掃腿(こうそうたい)がありますが、今回は、太極拳の白鶴亮翅を用いた掃脚を紹介します。

白鶴亮翅の構えで、相手の右拳攻撃を誘っている写真
白鶴亮翅の構えで、相手の右拳攻撃を誘います。
相手の右拳攻撃を白鶴亮翅の右掤勢で受けている写真
相手の右拳攻撃に対し、ポジションをやや左に移し、白鶴亮翅の右掤勢で受けます。
右手は捋に転換し、相手の頭部を押さえている写真
そのまま右手は捋に変化し、相手の頭部を左手で押さえます。
白鶴亮翅の用法例(掃脚)の写真
更に、相手の右足を左掃脚で払うように蹴ります。

白鶴亮翅(はっかくりょうし)の他の応用例は、こちら のページで紹介しています。

まとめ

今回は、中国武術(太極拳や八卦掌)の蹴法の基本概念、蹴りの種類と用法例を紹介してみましたが、いかがだったでしょうか。

実際には、途中までを里合脚、インパクトの瞬間を挿脚にするなどの応用例も多々ありますが、写真だと分かり辛いため割愛しました。

また中国武術には、下陰部を狙った蹴り技も多くありますが、あまりオープンにすべきではないと判断し、掲載を見送りました。

本文にあるように、私の知る限りでは、太極拳や八卦掌には蹴り合うという概念はありません。

そのため、蹴り技を使用すべき距離は、遠距離と近距離に限定されます。

中国武術の蹴りの基本概念
相手との距離基本的な戦術
遠距離相手の侵攻を止める
相手の反応を引き出す
中距離蹴り合わない
近距離手技と併用し、相手を拘束して蹴る

当会では、上記の原則に則り、派手さに走らず、実用性のある蹴法を、今後も研鑽していきたいと思います。

今回も最後までお読み頂きありがとうございました。

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