太極拳を深める次の段階として、太極剣や太極刀も学んでみたけれど、どうもしっくりこない、なかなか上達が感じられないといった方も多いのではないでしょうか?
その理由は、剣術や刀術の基本功を学んでおらず、套路(型)だけを学んでいるため、武器と歩法をつなげる体幹部の内功が稼働していない事によるものが大半だと思います。
太極拳と同じく、本来の太極剣や太極刀は、歩法と内功によって剣や刀を操作するため、内功が稼働しなければ、手先だけの動きとなってしまいます。
そういった方達のために、本ページでは、太極拳の剣や刀の基本功を中心に紹介します。
Contents
中国の剣と刀の違い
具体的な技法を学ぶ前に、まず中国の剣と刀の違いを簡潔に説明します。
中国武術の四大兵器(剣、刀、棍、槍)の中でも特に有名なのが剣と刀です。
どちらも、主に片手で操作する武器ですし、外見も何となく似ていますが、剣と刀の違いは何でしょうか?
まず外見から見比べてみましょう。
形態を比べると、剣のほうは英名 Straight sword の名前の通り、まっすぐです。また背刀部にも刃があり、両刃となっています。
それに対し柳葉刀のほうは、緩やかなS字のカーブを描いています。英名は Broad Sword 、直訳すると幅の広い剣という意味です。
この形態の差は、刀のもう一つの特徴である片刃にあり、刃の先端から三割ほどの部分(バットでいう真芯)に一番重さが乗りやすく、また対象物に当たった際に抵抗が起きにくい構造となっています。
この構造上の違いから、剣と刀では操作法や使用法にも違いがあります。
剣は将軍の武器、刀は兵士の武器
形態や使用法の違い以外にも、剣と刀では歴史的な扱われ方の違いもあります。
一言で言えば、剣は上流階級の武器、刀は一般階級の武器です。
軍隊で言えば、剣は将軍。刀は一般兵士の武器という事になります。
理由は、剣は両刃であるため、厚さも薄く(もろい)、製造が難しいという事もありますし、昔日から神事にも使用されてきたため、刀と比べて高貴な物として扱われてきました。
そのため使用法も、刀は戦場でぶった切るように使いますが、剣は相手の手首をこすり切ったり、剣先でちょんと突くような、繊細な技法が見受けられます。
太極剣と太極刀の基本功(動画)
では具体的な太極刀や太極剣の基本功を練習していきましょう。
中国刀剣術の基本動作は、要約すると、以下の三点となります。
- 立円動作
- 平円動作
- 直線動作
実際には、これらの三動作に含まれない技法(点や崩など)も存在しますが、まずは上記の三動作の習得に努めましょう。
中国刀術の立円動作
太極刀や太極剣の立円動作には、以下の三つの技法があります。
- 掛刀(かとう)
- 劈刀(へきとう)
- 撩刀(りょうとう)
剣や刀の三種類の立円動作を見ていきましょう。
掛刀(かとう)
立円動作の基本の一本目は、掛刀という技法です。
掛とは、文字通り引っ掛けるという意味です。身体の両側面で立円を描く軌道となります。
技法としては、下半身への攻撃を引っ掛けるように後ろに流し、そのまま立円動作で反撃する技法です。
最初は剣先を目で追うようにし、まずは自分の身体に当てないように注意しましょう。
掛刀を練習する事で、まず刀との連帯感を養ない、武器に慣れる事を第一とします。
掛刀は、太極拳の刀術や剣術を習得する上で最も重要な基本功の一つです。
焦らずに大きくゆっくりと練り上げて下さい。
掛刀から生じる技法の代表的なものとしては、以下のような技法があります。
下から上への掛刀の軌道から、剣先で点撃する技法。
上から下への掛刀の軌道から、斜め下方を突き刺す技法。
また掛刀の動作を素手で行えば、上から背掌や拳を振り落とす技法となります。太極拳で言えば打虎勢などの基となる動きです。
劈刀(へきとう)
立円動作の二本目は、劈刀です。
劈とは、斧を振り落とすように、上から下に切り落とす動作を言います。
武術に限らず、薪割りなどでもそうですが、上から下へ振り落とす力は、非常に大きい力です。
劈刀を練習する事で、倒捲肱や高探馬など、上から打ち落とす太極拳の技法の強化にもなります。
劈系の技法は数多く存在し、やはり最重要の功法の一つです。
烏龍が尾を振り回すように、剣を斬り落とします。
転身して、後ろの相手を斬ります。
翻身して刀を斬り落とします。
劈の動作も素手で練習する事ができます。
撩刀(りょうとう)
立円動作の三本目は、撩刀です。
撩とは、劈とは反対に下から上へと切り上げる動作を指します。
撩刀の基本技法は、大別すると二種類あり、一つは体の右側から斬り上げるもの、もう一つは体の左側から斬り上げる技法です。
下の動画は、体の右側から上へ斬り上げる撩刀です。
この撩刀の動きは、陳式太極拳の金剛搗碓の撩陰掌などと同様の動きとなります。
この撩刀の動きは、楊式太極拳の扇通背と同根の動きです。楊式太極刀や36式太極刀に出てくる技法です。
ここまで紹介した刀術の撩刀は、刀の背面部に左手を添えて行っていますが、剣の場合は、両刃のため、刃に触れる事はできず、左剣指を右手首に添えて行います。
陳氏太極剣のもっとも根幹的な基本技法のひとつ、歩法と内功によって、下から上へ斬り上げる技法。
退歩しながら行うのを「倒巻肱」、進歩しながら行う場合は、「護膝剣」と言います。
参考に動画を紹介します。
他にも、刀術や剣術には、後方へ向かって撩を行う反撩という技法もあります。
中国刀術の平円動作
中国刀術の平円動作は、大別すると二種類あり、外側から内へ斬る動作と内側から外へと斬る動作です。
どちらも技法自体は、平らに斬るという意味で「平斬」と言いますが、特に刀術では【纏頭裹脳(てんとうかのう)】という身法を用いた練習を行います。
纏頭裹脳(左右)
纏(てん)の字は、纏絲勁の纏。まとう、まとい付くという意味です。
裹(か)とは、くるむ、包むといった意味です。
纏頭で、頭をまとう、裹脳で脳を包むといった同じような意味になります。
具体的な動作としては、前方から後方へ頭上を纏う動作を纏頭。
後方から頭上を通り、腰の位置まで斬り落とす動作が裹脳です。
纏頭裹脳(前後)
纏頭裹脳の前後には、二つの基本技法が内包し、また数多くの応用技法が生じます。
中国刀術の母拳とも言える動作です。要領が掴めるまで、しっかりと練習しましょう。
本来であれば、裹脳で斬り落とした虚歩の際に、刀の先端は、左手刀の延長線上に向けます。
上で紹介した纏頭裹脳の左右の動画もですが、剣先が外に開き過ぎています。訂正させて頂きます。
裹脳平斬(かのうぴんざん)
この動作は、陳氏太極単刀では「風巻残花」と言います。後半は転身勢である「腰斬白蛇」を行っています。
纏頭平斬(ちゃんとうぴんざん)
動画では、最初に拗歩平斬、次に順歩平斬、最後は転身しての平斬を行っています。
平斬の動きを低い姿勢で掃くように行う技法を「掃刀(そうとう)」と言います。
掃刀の代表的な技法としては、陳氏太極単刀の「日套三環」があります。
ちなみに剣では、纏頭裹脳の動作はありません。理由は剣の場合は、背刀部にも刃がついているため、纏頭や裹脳を行うと、背刀の刃で自分の頭を切ってしまうからです。
替わりに、頭上ではなく顔の前で立円を描く雲片剣(ゆんぺんけん)や剣の背刀部を用いた斜飛勢など、剣独特の技法があります。
雲片剣(ゆんぺんけん)
動画の後半では、陳式太極剣の白猿献果という技法を行っています。
中国刀術の直線動作
剣や刀を直線的に扱う動作の代表例としては、突き刺す技法と押し出す技法があります。
扎刀、刺剣
直線的に突き刺す技法は、剣では、文字通り「刺剣」、刀の場合は「扎刀」と言います。
扎も同じ突き刺す意味ですが、もう少し強引に、ぶっ刺し貫くような感覚があります。
他にも太極剣では、両手で突き刺す技法もあります。
後半は、陳式太極剣の白蛇吐信を行っています。
推刀(すいとう)
もう一つの直線的な動作は、推刀と言い。相手と密着した状態から、太極拳の内功を用いて相手のバランスを崩し、押し出す技法です。
撩刀の項で紹介した【撩刀2】の技法も、推刀の一種と言えます。
楊式太極刀では、背刀部を左前腕部に貼り付けて行います。
下半身への攻撃を歩法でよけ、同時に推刀で遮断します。
点剣(てんけん)と崩剣(ほうけん)
点剣と崩剣は、これまで紹介した立円動作、平円動作、直線動作には含まれない独特の技法ですが、重要な技法ですので、追加で紹介します。
まず点剣と崩剣の動画を見てみましょう。
点剣
手首を支点に剣先が南京玉すだれのような軌道で下方に伸びていく技法を点と言います。
用法としては、文字通り剣先で点撃する場合もありますし、手首などを上からこすり斬る、あるいは相手の大腿部を突き刺す技法などがあります。
崩剣
点とは逆に、手首を支点に剣先が戻ってくるような軌道で、背刀部で上にこすり斬るような技法を崩と言います。
用法としては、相手の膝あたりを点撃する。または相手の手首を下から上へ引っ掛けて斬るような技法があります。
点も崩も手首を支点とした独特な身法を用います。
下の動画は、陳式太極剣の点剣である、燕子啄泥(えんしたくでい)という技法です。
まとめ
今回は、太極刀や太極剣など、中国刀剣術の基本を紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?
冒頭でも書きましたが、太極拳の剣や刀は、歩法と内功によって剣や刀を操作するため、剣術や刀術の基本功を練り、武器と歩法をつなげる体幹部の内功を養成する必要があります。
内功が稼働する事で、手先だけの動きではなく、車輪のように各技法がつながっていきます。
本記事では、どちらかというと太極刀に用いられる刀術の基本技法を中心に紹介しました。
陳式太極剣に特化した基本功や基本技法は【陳式太極剣の基本】のページで紹介しています。
あわせて、ご参考下さい。
また、当ページと関連性の高い内容を以下の記事にて紹介しています。
よろしければ、ご参考下さい。
- 伝統太極拳の基本や練習体系については、【伝統太極拳の基本と練習体系】のページで紹介しています。
- 文中によく出てくる内功に関しては、【太極拳の本質、内功について】のページで解説しています。
- 八卦掌の練習体系に興味のある方は、【八卦掌の特徴と基本】のページをご覧下さい。
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