前回の【八卦掌の特徴と基本】では、八卦掌の走圏、換掌、基本功といった八卦掌の基本を中心に紹介しました。
今回は、八卦掌の基本技法と套路の成り立ち(意味)について、陰陽や四象をテーマに紹介していきたいと思います。
Contents
陰陽、四象(ししょう)、八卦
八卦掌の基本技法の紹介の前に、簡単にですが、陰陽と四象について紹介したいと思います。
八卦掌の技法も大別すると、他の中国武術と同じく、まず防御的な技法と攻撃的な技法があり、それぞれに直線的なものと円形を描くものがあります。
仮にですが、赤を陽、青を陰とすると、二つの陰陽があると考えられます。
- 防御的な技法
- 直線的な技法
- 攻撃的な技法
- 円形を描く技法
さて、これらの陰陽を組み合わせると、四つの組み合わせができます。図に表すと、以下のようになります。
- 直線的な防御技法(陽・陽)
- 円形を描く防御技法(陰・陽)
- 直線的な攻撃技法(陽・陰)
- 円形を描く攻撃技法(陰・陰)
これら四つの現象の事を四象と言います。
さて、その上でですが、円形を描く攻撃的な技法(陰・陰)なのだけれども、防御的な要素も持つ技法(陽)といったものも現実的にはあります。
この場合は円形を描く(陰)、攻撃技法(陰)、防御技法としても使える(陽)となり、「陰・陰・陽」と三つの陰陽の組み合わせとなります。
このように三つの陰陽を組み合わせると、理論上は8つの現象ができ、所謂、八卦となります。
円形を描くものも、平円と立円で陰陽に分ける事ができますし、立円を描くものでも、上から下へ向かう力(劈や圧)と、下から上へ向かう力(撩や挑)があり、また開く力(開)と閉じる力(合)などもあります。
これらの陰陽を組み合わせれば、理論上は無限に技法を作れますが、理論上は可能でも、現実的には不可能な技法もあります。
ただし、八卦掌を理解する上で、このように一つの技法でも、そこに陰陽があり、相対的なものがあるという考え方は、必要だと思います。
要は【攻撃的な防御技法】だとか、【上から下への力を直線的に使う】とか、【直線的な技法だけれども、内面は上へ向かう力が働いている】など、八卦掌の技法は、見た目(外形)で判断するだけでなく、様々な要素が掛け合わさって存在しているという事です。
八卦掌の基本技法
では、ここからは、八卦掌の基本技法を具体的に見ていきましょう。
単換掌(たんかんしょう)
本来は、単換掌は基本功の項目に乗せる予定でしたが、八卦掌の戦術面を考え、基本技法としました。
単換掌は、ほぼ全ての八卦掌流派において、不動の第一掌として置かれている掌法です。
単換掌の本来の意味は、単(一回)、換掌する。つまり扣擺歩を用いて、体の向きを一回変換するという意味です。
単換掌には、様々な意味がありますが、まず走圏と同じように、内面的な骨格を形成するというのがあります。
この内面的な骨格が形成されてくると、内側から膨張する力が湧いてきます。(この膨張する力の事を太極拳では「ポン勁」と言います)
単換掌の定式では、この膨張する力を体の右側面に集中する事で、右肘、右掌、左掌の三点と右の脇腹付近を四隅とした平面が形成されます。
さらに功が進めば、この平面から右膝までを含めた、球体の盾を有する事になります。
戦いにおいて、もっとも有利な戦法の一つに、盾を持って、相手に対処するという方法があります。
機動隊などが、銃を持った犯人に、盾を持って対処するのと同じ理屈です。(盾を持って、やられない状況を作ってから接近する)
つまり八卦掌は、相手の攻撃に対し、やや斜め方向(斜身ぎょう歩)から、盾を持って侵入する事を、戦法の第一と考えているという事です。
(具体的な歩法に関しては、套路の項で後述します)
その後、盾の中から、走馬活携や探掌などの武器を出す場合もありますし、その盾ごと蓋掌や肘法に変化する場合もあります。
穿掌(せんしょう)
穿掌は、外見から指先で突き刺す技法と、一般的には思われていると思います。
もちろん突き技としても使用しますが、戦術的には、先に紹介した単換掌の原理を発展させた技法です。
理由は、単換掌の盾を持って相手に対処する戦法は、確かに有効ですが、動作が大きく、そのままでは実用するのが困難だからです。
そのため、八卦掌では、単換掌で生じた力を穿掌に凝縮して使用し、相手と接触した瞬間に単換掌の力に変化します。
(実際、尹派や梁派の八卦掌などでは、単換掌を穿掌で行うようです)
穿掌は、攻撃的な防御技法と言っても良いでしょう。
その際、単換掌を凝縮した力により、体の側面に壁が形成され、ある意味では、鎧をまといながら、相手に侵入していきます。
接触した瞬間に、単換掌や帯手に変化し、相手を崩す場合もありますし、劈掌や探掌、開掌など他の技法に変化する場合もあります。
また穿掌には、圧掌など他の功法の力を内在させる事も可能で、外見(箱)は穿掌でも、実質的には別の技法として使用する事もあります。
探掌(たんしょう)
また探掌の探の文字には、相手を探るといった意味もあります。
そして、これは私個人の考えですが、探掌という技法は、非常に抑圧された状況の中から、力を生じさせる技法だという事です。
抑圧されるというのは、上からは押さえつけられ、身体は開く事も、ねじる事も許されない、そのような【がんじがらめ】の状態から、力を絞り出して指先へ伝えていくイメージです。
イメージ的には、古流の沖縄空手のサンチンやセーサンの突きに近いと思います。
動画を見て頂ければ分かると思いますが、横から見ても、正面からみても、身体を左右に捻じっていませんし、穿掌のように上下の運動も行っていません。
横方向への探掌でも、手をまったく引いていませんから、外見上は、まったくの手打ちという事になります。
実際、動画を見て2~3年練習してみても、何の効果も、変化も無いと思います。
それでも、さらに5年、10年と練習を続けていけば、抑圧された状況の中から、探掌の功夫(内功)が生じ始めるかもしれません。
見た目から、単に穿掌の変化技と思われている探掌ですが、内功的には異なり、非常に高度な技法となります。
単圧掌(たんあっしょう)
単圧掌は、基本功の項で紹介した双圧掌の上から下への力を片方の腕に集約させた技法です。
また後方の腕を勾手としてねじり、胸を左右に展開する事により、前方の腕に纏絲勁を発生させています。
基本的には上から下へ押さえる防御的な技法ですが、内面的には水平方向へ開く力や、前方へ突き刺す力も内在されています。
攻防ともに、非常に応用範囲の広い技法です。
両腕を上から下へと展開しながら打ち下ろす功法です。
劈掌(へきしょう)
劈掌には大別すると、歩法を伴って両腕を車輪のように回す「輪劈(りんへき)」と、内功によって行う劈掌があります。
下の動画は、以前作成した輪劈の動画です。
輪劈の特徴としては、両腕を一本の棒のように用い、主に歩法と連動して使用します。
楊式太極拳では、輪劈の力を前方への力に転化した倒攆猴(とうでんこう)という技法があります。
次に内功による劈掌も紹介しましょう。
内功による劈掌は、走圏の指天挿地などにより、体の右半身と左半身のそれぞれを上下に展開し、収縮させる練功が必要となります。
振り落とすというよりも、身体を上下に開いた後、合して落とす感覚です。言い換えれば、上下の開合式と言えます。
その他、宋派の八卦掌には、白菜を包丁で推し切るような、前方へ向けての劈掌もあります。
蓋掌(がいしょう)
蓋掌は、上から下に相手を覆いつくすように放ち、基本的には輪劈と同じように、三角歩などの歩法と連動して使用します。
双換掌や順勢掌など、八卦掌の主要な掌法に含まれる八卦掌を代表する技法です。
功が進めば、純粋に前方への力として使用する事もできます。
さて、その上でですが、蓋掌も上記で紹介した内功による劈掌を応用する事で、内功で放つ事も可能となります。
内功によって放てるようになれば、歩法は用いず、その場で瞬間的に発する事もできるようになります。
劈掌の場合は、一旦上下に分けた後に合して落とす感じですが、蓋掌の場合は、上げながら落とし始め、インパクトの瞬間に合する感じです。
内功による蓋掌の利点の一つとしては、背の高い相手にも上から打ち落とす打撃が使えるところにあります。
背の高い人は、上から打ち落とされる経験が少ないため、使えれば有効な打法となります。
単撩掌(たんりょうしょう)
「撩」という字の意味は、すその長い中国服のすそをまくし上げるなどの意味があり、武術的には下から上への力の総称です。
単撩掌は、基本的には防御的な技法として使用しますが、下から上へと切り上げる切掌や、蛇形に変化させて穿掌の変化として使用する場合もあります。
また、次で紹介する挑打や単撞掌などの蓄勢としての意味もあります。
その他、撩掌系の技法としては、相手の下陰部をすくい打つ撩陰掌(りょういんしょう)や相手の下腹部に打ち込む下塌掌(かとう しょう)などがあります。
挑打(ちょうだ)
挑打の「挑」の字は、日本語では、挑戦する、挑むの意味ですが、中国語では、棒を担ぐ、担ぎ上げるなどの意味もあり、武術的には、撩よりさらに上への力を意味します。
外見的には、上段受けと推掌を同時に行う直線的な技法に見えますが、挑打は、獅形の走圏や換掌、獅子揉球などとの関連が強く、下から持ち上げてきた力を、上方と前方の十字ラインへと射出します。
単撞掌(たんどうしょう)
「撞」の字には、身体全体でぶつかる、衝突するなどの意味があり、一般的には腕を使った体当たりと紹介される事が多いようです。
イメージ的には、お寺の鐘をドーンと突くような感じです。
ただ私個人が実際に練習してきて思うのは、単純に腕を前後に振り打ったり、飛び込んで打つのは初心者の段階で、次第に内面的な作業で行うようになります。
撞掌を内功で打てるようになれば、腕を振る必要もなく、太極拳でもない、形意拳でもない、純粋な八卦掌としての掌打となります。
反背捶(はんはいすい)
反背捶は、一言で言えば、八卦掌式のバックブローと言えるでしょう。
いかにも八卦掌的な技法のようですが、実際の格闘技の試合などでも、そう頻繁に使用されるわけではなく、やはり相手の虚をついた技法と言えます。
実用時には、扣歩を用い、垂直軸を中心に背面へと力を発します。
帯手(たいしゅ)
帯手は、単換掌を応用した相手を引き崩す技法です。
帯手に身法を用いたものと、歩法を用いたものとがありますが、この動画では歩法を用いたものを紹介しています。
身法を用いたものも同様ですが、単純に引っ張るのではなく、あくまで単換掌で得た力を活用する技法です。
八卦掌の実用技法
上記で紹介した八卦掌の基本技法を組み合わせたものが実用技法となります。
ここでは一例として、穿掌→撩掌→劈掌の連続技法を紹介します。
八卦掌の套路(とうろ)
右往左往に駆け巡り、転身を繰り返す八卦掌の套路(型)、見た事がある方は、あれは何をやっているのか?と思うと思います。
また動画などで配信されているものは、表演用のものと伝統のものとがあり、私などでも表演用の套路は、何をやっているのか分からなくなります。
ただ伝統套路の場合は、基本的には、歩法は「扣歩(こうほ)」と「擺歩(はいほ)」を用い、この扣擺歩と換掌や基本技法を組み合わせて行っています。
さて、この八卦掌の套路ですが、実は各派において、ずいぶんと構成が異なります。
太極拳や形意拳の場合は、門派が違っても、套路の構成は大体同じですが、八卦掌の場合は、以下で紹介する老三掌を除いては、まったく違うと言ってもいいほどです。
八卦掌の中で一番普及している程廷華(ていていか)派などでも、伝承経路が異なれば、同じ程派であっても型が違います。
なぜ違うのか?まずは各派で共通している老三掌の成り立ちを考えてみましょう。
八卦掌 老三掌(ろうさんしょう)
八卦掌の老三掌の套路は、大体において、各派の八卦掌に含まれています。
当然、技法としての意味もあるのですが、なぜ老三掌があるのかを考えてみましょう。
単換掌と順勢掌
まず、老三掌の中で、明らかな対比が見受けられるのは、単換掌と順勢掌(じゅんせいしょう)です。
この二つの掌法では、扣擺歩の方向が異なり、陰陽の関係となります。
以下の図は、単換掌と順勢掌の演武線の相関図です。
単換掌は、A地点で、右足で扣歩し、左足で擺歩しています。
順勢掌は、A地点で、左足で扣歩し、右足で擺歩します。
結果的に、表裏(陰陽)の関係となっています。
単換掌と双換掌
次に対比できるのは、単換掌と双換掌です。
単換掌と双換掌では、扣擺歩を行う回数が違います。
以下の図は、単換掌と双換掌の対比図です。
双換掌では、単換掌が終わった後に、B地点で再度右足で扣歩し、C地点へ左足で擺歩します。
つまり、扣擺歩を2回行い(双扣双擺)、結果として2回換掌を行うため、双換掌と呼ばれています。
双換掌と順勢掌
では、双換掌と順勢掌では、どのような相対関係があるのでしょうか?
その前に、まず単換掌と対比した、「双換掌と順勢掌の共通原理」を考えてみましょう。
単換掌は、平円の動きを主体とした套路であるのに対し、双換掌と順勢掌は、共に立円を主体に構成されている套路です。
ただし、双換掌は下から上への力である撩掌から始まり、順勢掌は逆に上から下への力である蓋掌から始まっています。
つまり、同じ立円を描きながら、身法的には真逆の動作から始まっています。
双換掌と順勢掌の戦略的な違い
では、次に双換掌と順勢掌の戦略的な違いを考えてみましょう。
実は、双換掌と順勢掌に含まれる技法は、ほぼ同じです。
双換掌、順勢掌ともに、上下に意識を広げる式(指天挿地と鷂子鑚天)、三角歩を用いた蓋掌、そして下勢です。
では、何が違うのかというと、やはり歩法が異なるという事です。そして、この歩法の違いが各掌の戦略的な違いを表しています。
その違いを理解するために、いま一度、双換掌と順勢掌の歩法を確認してみましょう。
この事から、双換掌は進撃を意図した歩法となっています。
この事から、順勢掌は退避を意図した歩法となっています。
では、これらの歩法の違いが、実際の実用時にどのように用いられるのかを見ていきましょう。
下の図は、実用時の単換掌の歩法です。赤点は相手、赤の矢印は相手の攻撃線とします。
基本技法で紹介したように、八卦掌は相手の攻撃に対し、単換掌の盾を持って、やや斜め方向から侵入します。
その後、前手を基本技法で紹介した探掌、劈掌、蓋掌、帯手などに変化させたり、後手を走馬活携や探掌などの技法に変化させます。
この単換掌の変化で相手を仕留める事ができれば、ここで完結です。
ただし、相手が逃げた場合や、相手の抵抗力が強い場合は、双換掌や順勢掌の歩法へと変化する必要があります。
まずは、双換掌への変化を見てみましょう。
単換掌で仕留められず、相手が後退した場合は、後足を進歩させ進撃します。
さらに相手が後退した場合は、その場で扣歩し、転身探掌や反背捶などへつなげる。あるいは、そのまま擺歩して相手を追撃していきます。
双換掌の歩法は、相手が逃げた場合に、進撃、さらに追撃し、相手を追いかけて仕留める事を目的としています。
続いて、順勢掌への変化も見てみましょう。
単換掌で相手と接触した際に、相手の圧力が思った以上に強かった場合は、順勢掌の歩法で、一旦相手から離れ、別角度から再度攻撃します。
具体的には、A地点で右足を扣歩し、B地点へ左足を擺歩、そのまま転身して相手へと向かいます。
つまり順勢掌では、最初の侵入経路(単換掌)の反対側から、再度相手に侵入していきます。
※ 双換掌や順勢掌には、他にも様々な歩法の応用例があります。ここでは、対比を目的とした一例を紹介しています。
ここまで説明してきたように、老三掌には、歩法や身法、そして戦略的な部分についても、それぞれに対比する理由があり、やはり最初の三掌は、この三掌でなければならない理由があります。
第四の掌法は?
ここまで老三掌(単換掌、双換掌、順勢掌)の各掌同士の相対関係について説明してきました。
では、第四掌はどうなるのか?と気になる方も多いと思います。
ここまで説明した原理を基に、単換掌の双扣双擺として双換掌が存在するので、順勢掌の双扣双擺(双換掌)でしょうか?
確かに順勢掌の双扣双擺を表現した套路もありますが、残念ながら第四掌ではありません。
結論から言えば、第四掌は、門派によって様々です。
逆に言えば、この第四掌に何を置くかが、各派の特徴であり、考え方を表していると言えます。
例えば、馬貴派八卦掌の第四掌は、三穿掌(さんせんしょう)です。三穿掌は、穿掌を三回換掌しながら行いますから、三換掌とも言えます。
この場合は、双換掌の発展形となります。
また、双換掌で用いられる扣擺歩が大扣擺歩であるのに対し、三穿掌では小扣擺歩が用いられます。
この場合は、大小の対比となります。
では、私が学んだ宋派や程派ではどうかと言うと、第四掌ではないのですが、鷂子穿林(ようしせんりん)という技法が、どちらの套路にも含まれています。
鷂子穿林の歩法は、双換掌と同じです。では何が違うかというと、最後の転身後の動作が異なります。
双換掌の場合は、転身した後、下勢で下に沈むのに対し、鷂子穿林は、独立して白蛇吐信を行います。
下に向かう下勢と、独立して上へ向かう白蛇吐信が、上下の相対関係となっています。
第五掌~八掌は?
では、第五掌以降は、どうなるのでしょう?
正直、第五掌以降は、各派の八卦掌の套路を見比べてみても、共通した技法があったりなかったり、同じ掌法の名前であっても、動作が異なっていたりして、共通の原理を見つけるのは難しいかもしれません。
八卦掌の開祖である董海川(とうかいせん)は、各学生が元々学んでいた武術を活かすような指導をしたと言われており、二代目以降の得意技であったり、元々学んでいた武術の技で構成されている可能性もあります。
ただ門派によっては、その門派なりの理屈で構成されている場合もあるようです。
例えば馬貴派であれば、前半四掌は歩法を、後半四掌は身法を学ぶ構成となっています。
馬貴派の後半四掌で、それぞれの掌法が、どのような身法の習得を目指しているのか、現時点で私自身が明確な答えが出ておりませんので、ここでの憶測は避けますが、私の学んだ程派の老八掌では、後半四掌で開合、縦回転、磨身(横回転)、雲片などの特徴的な身法を学びますので、八卦掌全般で共通する考え方なのかもしれません。
また馬貴派では、第五掌の揺身掌は、双換掌から、第六掌の磨身掌は、順勢掌からの発展形となっています。
私個人としては、第七掌の廻身掌も順勢掌との関連が強いと感じています。
宋派の八卦掌に関しては、後半の套路は、どちらかというと、連続した技法が多く、共通点や対比を探すのは難しいです。
宋派は、中国でも伝承者が少なく、他派の宋派を見る機会がほとんど無いですからね。今後の研究課題です。
大陸などで宋派の八卦掌を学ばれた方や見た事があるという方がいらっしゃれば、問合せフォームから、連絡を頂ければありがたいです。ぜひ交流しましょう。
この項の最後に述べたいのは、実は八卦掌の套路は、根本的な原理さえ掴んでいれば、実はいくらでも作れるという事です。
その原理とは、冒頭で紹介した陰陽であり、四象です。
陰陽とは、単換掌に対しての順勢掌であったり、上下であったり、左右であったりです。
例えば、単換掌の歩法で使う技法を順勢掌の歩法で行えば、陰陽の関係にある別の技法となります。(例:探掌と順勢探掌)
身法においても、下へ向かう技を上へ向かう技に変更しても、別の技法となるでしょう。(例:圧掌と撩掌)
平円で行う動きを縦回転にする事でも、別の動きとなりますし、その際、下から上へ回るのか、あるいは上から下に回るのかでも、それぞれ違う技となります。(例:劈掌と撩陰掌)
遠心的に使う技を求心的に行うというのもあるでしょう。(例:順勢と磨身)
また方向や方位を変えるというのもあります。(例:双換と揺身)
もとは一つの技法でも、そこに様々な陰陽を掛け合わす事によって、いくらでも技は増えていきます。
八卦掌の八卦とは、八卦そのものの意味よりは、無限といった意味なのかもしれません。
八卦掌開祖 董海川は、単に技法としてよりも、原理や考え方を中心に伝えていたのかもしれませんね。
まとめ
今回は、【八卦掌の特徴と基本】の続編という事で、八卦掌の基本技法と套路の成り立ちについて、紹介してみました。
また、八卦掌の技法や套路の基となる陰陽や四象を一つのテーマにおいて、各技法や套路を対比して考えてみました。
当サイトでは、一生残せる記事を書いていこうとのコンセプトですので、今後も加筆改訂などを重ねて、本記事を育てていくつもりです。
思い出した時にまた訪れて頂ければ幸いです。
さて、その上で本記事で一番伝えたかったのは、八卦掌は、やはり八卦掌だという事です。
八卦掌というと、どうしても変化や転身のイメージが強く、根幹は別の拳法を学んで、変化や応用を八卦掌で学ぶという考え方が未だにあるようです。
八卦掌は、套路上で技法を明確に表示しませんし、換掌や走圏についても、あまり明確に意味を説明しないため、そういった見られ方をされているのだと思いますが、私個人は、十分【核となる拳法】だと思います。
また核となるよう今後も精進していかなければなりませんね。
当会で指導している八卦掌については、下記記事にて紹介しております。
八卦掌に興味を持った方がいれば、体験やオンラインでの指導もしております。
今回も最後までお読み頂きありがとうございました。
令和2年12月
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