陳式太極拳の掩手捶と楊式太極拳の搬攔捶は、各派を代表する捶撃、拗歩捶(空手で言う逆突き)ですが、外見的な違いだけでなく内面的な違いも大きいと思います。
今回は掩手捶と搬攔捶を比較してみたいと思います。
掩手捶(えんしゅすい)
掩手捶は、掩手肱捶、掩手肱拳とも呼ばれ、摟膝拗歩と並び陳式太極拳の決め技と言えます。
掩手捶には、どのような意味や用法例があるのか、考えてみましょう。
掩手捶の意味
まず、掩手捶の捶の意味は、(拳などで)たたく、打つという意味です。太鼓などをばちで打つ際も捶の字が用いられます。
掩には、大別すると二つの意味があり、一つは、(物を)覆う、かぶせる、隠すといった意味。
もう一つは、(門や戸などを)、閉じる、閉めるといった意味です。
掩手捶で、相手の手を覆う、あるいは相手の手を閉じて(封じて)、打つといった意味になります。
両手の2台の草刈り機が、相手の両手を巻き取り、覆った後に捶撃するイメージが推察できると思います。
他にも小架式の掩手捶の場合は、突く際に左手を右手で覆う動作がある事から、手を隠して打つ、見せずに打つといった意味もあるかもしれません。
掩手捶の動作
老架式の掩手捶は、掩手で体を絞って凝縮し、一旦沈め、吸い上げ、再び凝縮しつつ、全身で纏絲を発生させます。
単に拳を捻じって突くのではなく、纏絲功などの基本功に熟知した後、あくまで全身で纏絲を発生させます。(全身連動)
老架の掩手捶は、太極拳の突く仕組みを体内に形成するのを目的としています。
本来の掩手捶は、相手に密着し、捕らえた後に打ち込みますが、後半部分では少し格闘技用にアレンジした拗歩捶と順歩捶を紹介しています。
当派で練習している掩手捶は、体は震わせず、あくまで拳を突き込みます。
小架式の掩手捶は、基本的には螺旋勁を用い、最後に一瞬だけ纏絲をかけます。
螺旋勁を用いるので、一般的な打撃系の逆突きのように、肩も腰も入れません。表面上は、一見すると手打ちのようにも見えます。
ちなみに突いた後に、手を引いているように見えますが、引く意識は全く用いず、突きの終着点から、ゴムで引き戻されるように自然に戻ってきます。
形式上は、順歩となっているので、順歩捶としていますが、内功が噛み合ってくれば、実際には順歩や拗歩といった区別は無くなります。
順歩捶では、意識の発動と共に拳が射出され、身体はそれに引っ張られていきます。
感覚的には、相手に当たる瞬間に、引っ張られた前足も着地するような感じです。
障子を突き破らなくて良かったです(^_^.)
掩手捶の用法例
掩手捶の用法例を考察してみましょう。
肩をつかまれた状態から、相手の両手を掩手で覆って閉じ、打撃します。
慣れてきたら、相手が肩に触れる瞬間、相手が触れようとした意識した瞬間、また打撃にも対処できるよう練習していきます。
続いて、順歩での掩手捶の用法例を見てみましょう。
動画では拳ではなく掌を用い摔法(投げ技)として使用していますが、掌を拳に変え、捶撃として使用する事も可能です。
演手捶を用いた二段打ち
おまけですが、昔、散手用に工夫した掩手捶を用いた二段打ちを紹介します。
掩手捶の打つ仕組みが体の中に出来てくると、突きの途中で急停止したり、急加速したり、あるいは軌道を変えたりする事ができるようになります。
応用としては、一打目の掩手捶で相手のガードを固めさせ、相手のガードが緩んだ瞬間に二打目の掩手捶を打ち込みます。
相手のガードの隙間を狙い、二打目を鉤突き(肘底看拳)や中段への軌道に変化する事も可能です。
手でチョンチョンと突いているように見えますが、スーパースロー再生で見ると、二打目もしっかりと打ち込んでいるのが分かると思います。
いずれも内功による操作で、特に二打目の威力が落ちないようにする工夫が必要です。
ちなみに二段打ちができるようになると、別に二段で打たなくても、独特の拍子で掩手捶が打てるようになります。
搬攔捶(ばんらんすい)
搬攔捶の意味
搬には、人や物を動かす、移す、運ぶといった意味があります。
攔には、ふさぐ、さえぎる、止めるといった意味になります。
搬はやや積極的な防御技法と言え、相手の攻撃を誘ったり、こちらから攻撃を仕掛け、相手に接触していきます。
その後、攔で相手の追撃を遮り、進歩と共に捶撃を行います。
進歩搬攔捶の動作
では、進歩の搬攔捶の動作を見てみましょう。
陳式太極拳の掩手捶と比較して、どのような特徴があるでしょうか?
すべて明らかにしてしまうと、意味がないので、特に会員の方は、どのような違いがあるのか、よく考えてみてください。
搬攔捶の用法例
それでは、搬攔捶の用法例を考察してみましょう。
この状態で、相手の両腕の自由を奪い、同時に相手の腹部の空間を空けます。
次に「搬・攔」を用いた摔法を紹介します。
まとめ
今回は、陳式太極拳の掩手捶と楊式太極拳の進歩搬攔捶の意味や動作、用法例を比較してみましたが、いかがだったでしょうか。
今回使用した写真や動画は、すべて3~4年前(コロナ禍)のもので、現在の私の動きや考え方とも少し異なっています(記事を書こうと思いながら放置していた)
掩手捶も現在では、もっとす~っとした感じになりましたし、動画を撮った時のような大きな力を発する事もなくなりました。
武術の世界に「守・破・離」といった言葉があります。
「守」の段階は、徹底して学び、基礎を身に付ける段階。楊式太極拳の始祖 楊露禅は30年近く、陳家溝で学んだと聞きます。
この「守」の段階が盤石だからこそ、「破(殻を破る)」や「離(自立)」の段階があります。(「守」のない「破」や「離」は、ただの独学です)
私も太極拳を学び始めて30年の月日が経ちました。まだまだ「守」が足りませんが、少しずつ殻を破っていければと思います。