本記事では、中国武術(太極拳や八卦掌)の蹴り技の基本概念、種類、使用法を紹介しています。
Contents
中国武術の蹴りの基本概念
私の知る限りですが、太極拳や八卦掌に、キックボクシングのように、一定の距離を保ちながら蹴り合うという概念はありません。
では、どういう場合に蹴り技を用いるかと言うと、遠距離では、相手の侵攻を止める。または、相手の反応を引き出す。
そして、中距離での蹴り合いはなく、近距離の場合は、手技と併用し、相手を拘束して蹴ります。
まとめると、以下のようになります。
相手との距離 | 基本的な戦術 |
遠距離 | 相手の侵攻を止める 相手の反応を引き出す |
中距離 | 蹴り合わない |
近距離 | 手技と併用し、相手を拘束して蹴る |
太極拳や八卦掌の蹴りの種類
太極拳や八卦掌で用いられる蹴りの種類は大別すると、直線的な蹴りと円を描く蹴りの二種類です。
また、それぞれの基本となる蹴りは、直線的な蹴りが二本、円を描く蹴りも二本の計四本となります。
随分と少なく感じますが、実際にはそれらが組み合わさり、また手技と併用する事で、多種多様な蹴り技へと発展していきます。
蹴りの種類 | 技法名 |
直線的な蹴り | 挿脚(分脚) 蹬脚 |
円を描く蹴り | 擺脚 里合脚 |
順に紹介していきましょう。
中国武術の直線的な蹴り
直線的な蹴り技の代表例として、挿脚(そうきゃく)と蹬脚(とうきゃく)を紹介します。
挿脚(そうきゃく)
挿脚は、陳式太極拳での技法名で、楊式太極拳では分脚(ぶんきゃく)と言います。
挿には、挿入する。差し込むの意味があり、主としてつま先を用い、相手に差し込むような蹴りの総称です。
套路の動きでは、上へ蹴り上げていますが、実用時は、つま先を相手にめり込ませるように蹴ります。
挿脚(分脚)を跳び上がりながら行う蹴りが、カンフー映画で有名な【二起脚】です。
20年前くらいに撮影した「二起脚」の写真。当時のデジタルカメラの連続撮影では、足の伸びきった写真が取れませんでした(^_^.)
今も跳べますが、跳び上がり方が、だいぶ変わりましたね。
八卦掌 穿脚(せんきゃく)
八卦掌のつま先を使った蹴りは、手技の穿掌と併用され、穿脚(せんきゃく)と言います。
套路や単式練習では、動画のように手脚を同時に放ちますが、実用時は若干の時間差をおいて発します。
蹬脚(とうきゃく)
蹬には、踏む、踏みしめるの意味があり、技法的には踵で踏み込むような蹴り技の総称です。
刀や槍の套路には、写真のように槍や刀を頭上にかかげ、蹬脚を行う架式があります。
理由は、蹬脚は本来、相手に突き刺さった槍や刀を、相手を蹴飛ばして、引き抜いていた事に由来があるそうです。
それ故、相手の腕を槍や刀に見立て、相手を固定して蹴る 中国拳法独特の蹴り技が発展していったのだと思います。
八卦掌の蹬脚
馬貴派八卦掌の李老師に蹬脚を習った時は、立身中正を維持する太極拳の蹬脚とは、あまりにもかけ離れていて、当時は疑問に思ったものでした。
意味としては、武器を持った相手と対峙する際などに、相手の刃物が届かないよう、少しでも遠くから蹴る技術が考案されたのではと思います。
同じ踵を用いた蹴り技でも、門派によって、ずいぶんと発想が違うものです。
中国武術の円を描く蹴り
円を描く蹴り技の代表例として、擺脚(はいきゃく)と里合脚(りごうきゃく)を紹介します。
擺脚(はいきゃく)
擺脚は、内側から外側へ弧を描く蹴り技の総称です。
門派によっては、外側に向かって旋回する事から、外旋脚とも呼ばれます。
里合脚(りごうきゃく)
里には、内側、裏側の意味があり、合には合わさる、閉じるの意味があります。門派によっては内旋脚とも呼ばれます。
技法的には、外側から内側に円を描き、足の内側を使って蹴る技法の総称です。
里合脚には、大きく円を描く大旋と、小さく引っ掛けるように蹴る小旋があり、大旋は掛面脚、小旋は単に掛脚とも言います。
里合脚の大旋を跳び上がりながら反転して行えば、「旋風脚(せんぷうきゃく)」となり、地に伏して行えば、「前掃腿(ぜんそうたい)」となります。
中国拳法の蹴りの使用例
蹴りの基本概念で説明したように、太極拳や八卦掌には中間距離で蹴り合うといった発想がないため、遠距離と近距離に絞った使用例を見ていきましょう。
遠距離での蹴り
遠距離で蹴りを用いる用途は、以下の二点です。
- 相手の侵攻を止める
- 相手の反応を引き出す
順に見ていきましょう。
相手の侵攻を止める蹴り(蹬脚応用例)
相手の侵入を止める場合は、主として蹬脚を用い、半歩下がる、もしくは前足を後ろへ換歩して行い、空間を作った上で蹴ります。
上記で紹介した技法は、いずれも防御的な技法で、威力は求めず、蹴り足の着地と共に歩法を用いて相手に密着して反撃します。
相手の反応を引き出す蹴り
人間は、相手にされた事を同じように返す習性があり、足を蹴られたら足を蹴り返し、顔を蹴られたら顔を蹴り返そうとします。
その習性を利用し、相手の次の行動を限定させた上で、歩法を用い密着して反撃します。
また、わざと相手の胸あたりを蹴り、相手がその蹴り足を捕らえようとする反応を引き出した上で、歩法を用いて密着する戦法もよく用いられます。
近距離での蹴り
近距離での蹴り技は、手技と併用し、密着した状態で、相手を拘束して行います。
分脚(ぶんきゃく)の応用例
いずれにしても、相手の左腕と頭を捕捉した上で行います。
分脚には、相手を背中側に崩して蹴る用法もあります。
単鞭について、詳しくは、こちら のページをご覧下さい。
この状態から、相手の尾てい骨を狙ったり、相手の右足を刈って投げる場合もあります。
擺脚(はいきゃく)の応用例
擺脚にも、様々な使用法がありますが、ここでは擺脚を用いた投げ技を紹介しましょう。
写真だと単純な梃子の応用に見えますが、実際には内功による螺旋状の力がなければ、技はかかりません。
若い頃は、色々と無茶な擺脚の応用を練習していましたが、年を取ってくると、だんだん地味な用法例になります(^_^;)
里合脚(りごうきゃく)の応用例
里合脚にも様々な用法がありますが、ここでは、相手の背面に回り込み、相手の顔を押さえての蹴りを紹介します。
ちょうど八卦掌の走圏のような歩法です。
扣歩…八卦掌を代表する歩法の一つ。外側から内側へ弧を描く歩法。
その他の蹴り技
中国武術には、套路(型)上は、技法名の無い蹴り技も多数存在します。
代表的な技法を紹介しましょう。
斧刃脚(ふじんきゃく)
斧刃脚の解釈は、門派によって様々ですが、基本的には斧を振って木を倒すように、相手のすねや膝を狙います。
この場合は、木をへし折るようなイメージです。
ここで紹介した技法は、陳式太極拳の金剛搗碓に含まれる蹴法です。
金剛搗碓について、詳しくは、こちら のページをご覧下さい。
八卦掌 穿脚(せんきゃく)
動画で紹介した八卦掌の穿脚の応用例です。
写真だと単純に見えますが、実際には微妙な時間差(拍子)を用います。
掃脚(そうきゃく)
掃(そう)の文字は、掃除の掃です。つまり掃くような蹴り技の事です。
基本技法としては、前掃腿(ぜんそうたい)や後掃腿(こうそうたい)がありますが、今回は、太極拳の白鶴亮翅を用いた掃脚を紹介します。
白鶴亮翅(はっかくりょうし)の他の応用例は、こちら のページで紹介しています。
まとめ
今回は、中国武術(太極拳や八卦掌)の蹴法の基本概念、蹴りの種類と用法例を紹介してみましたが、いかがだったでしょうか。
実際には、途中までを里合脚、インパクトの瞬間を挿脚にするなどの応用例も多々ありますが、写真だと分かり辛いため割愛しました。
また中国武術には、下陰部を狙った蹴り技も多くありますが、あまりオープンにすべきではないと判断し、掲載を見送りました。
本文にあるように、私の知る限りでは、太極拳や八卦掌には蹴り合うという概念はありません。
そのため、蹴り技を使用すべき距離は、遠距離と近距離に限定されます。
相手との距離 | 基本的な戦術 |
遠距離 | 相手の侵攻を止める 相手の反応を引き出す |
中距離 | 蹴り合わない |
近距離 | 手技と併用し、相手を拘束して蹴る |
当会では、上記の原則に則り、派手さに走らず、実用性のある蹴法を、今後も研鑽していきたいと思います。
今回も最後までお読み頂きありがとうございました。
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中国武術(太極拳や八卦掌)で使用される手型とその使用法や変化技法までを以下のページで紹介しています。
陳式太極拳の各技法の套路(型)の動きと、用法例(打法、摔法、擒拿)を紹介しています。
楊式太極拳の各技法の套路(型)の動きと、用法例(打法、摔法、擒拿)を紹介しています。
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