太極拳の推手という対人練習の一つに四正推手という練習法があります。本ページでは、当派の四正推手の意味や特徴、また分解写真を用いた解説を行っています。
推手全般については【推手について】のページをご覧ください。
四正推手とは
四正推手は、推手と呼ばれる対人練習法の一つで、太極拳の四正手(掤ポン、捋リー、擠チー、按アン)という四つの技法を用いて行う推手の事です。
四正推手には、基本的な動きを理解するための定式練習と、技法の原則を理解するための活歩練習、また四正手を用いて自由攻防を行う自由推手などの練習法があります。
四正の意味
四正とは、東西南北などの四つの方向を表す言葉です。
四正推手の場合は、上、下、前、後の方向をさしており、具体的には上下前後に崩す技法(四正手)を用いた推手という事になります。
四正手(掤、捋、擠、按)の崩す方向は、以下のようになります。
四正推手の目的
四正推手の目的としては、一般的な推手と同じく、まず以下のような目的があります。
- 聴勁(ちょうけい)の養成
- 沾粘勁(てんねんけい)の養成
- 捨己従人(相手の力を借りる)
上記の内容について、詳しくは【推手について】のページをご覧ください。
その上で四正推手独特の特徴としては、以下のような点があります。
- 四正手(掤ポン、捋リー、擠チー、按アン)各技法の理解と習得
- 太極拳の摔法(投げ技)や擒拿の原則の習得
順に考察していきましょう。
四正手(掤、捋、擠、按)の理解と習得
四正手(掤ポン、捋リー、擠チー、按アン)は、太極拳を構成する重要な技法(主に崩し)であると共に、勁の種類とも言えます。
まず各勁の特徴と基本的な技法としての意味を考えていきましょう。
掤(ポン)
掤は、風船が膨らむような内から膨張する勁で、技法としては相手の重心を上へ崩す技法です。
ただし、無理やり相手を持ち上げるように崩すのではなく、あくまで掤勁による膨張感で相手に接し、伸張する身法で相手を崩します。
捋(リー)
捋は、掤で相手を上方へと崩した後、切り返して、相手を後方へ崩す技法です。
滑車やコロのような作用を用い、無理に引っ張るのではなく、相手をコントロールしながら導くように崩します。
擠(チー)
挤は、套路(型)では両手を合わせて前方に押し出すような動きですが、当派での捉え方としては、相手の捋に乗りつつ、前へ出る事で、相手を前方に(相手から見たら後方へ)崩す技法です。
擠にしても、やはり無理やり相手に入っていくのではなく、あくまで相手の捋に乗った形で入ります。
柔道に「押さば引け、引かば押せ」という言葉がありますが、引かば押せとほぼ同義語と言えるでしょう。
この写真では、単に入り身して相手の動きを封じていますが、化勁が使えるようになると、相手の両手を封じた状態で、前方に崩す事になります。
按(アン)
按も套路上は、両手で相手を押しているような動作ですが、実際には相手の両手を封鎖しながら、下方へと崩す技法です。
套路の動きは、相手の両手を封鎖すると同時に一旦下へ崩し、そのまま前方へと押し出している動作です。
四正推手の分解写真
では、次に四正推手の各動作を分解写真で見てみましょう。
定式の四正推手は、動画などで公開されているので、ここでは各技法の特徴をより明確にした当派の活歩推手を紹介します。
甲(水色)乙(青)とします。
この状態から乙(青)が甲(水色)に対し、前方へと圧力をかけます。
乙の押してきた力を甲(水色)は、掤勁を用い、上へと崩し無力化します。
そのまま捋へと変化し、相手を後方へと導きます。
乙(青)は、甲(青)の捋に導かれながら、乙の左手を外し、右足を甲の太もも裏に上歩し、甲を前方へと崩します。
甲(水色)は、左足を換歩しながら、相手の両手を折りたたみ、下方へと封じ込めます。
※ 換歩…足を前後などに踏み換える歩法。ここでは相手の進行に対し、一旦左足を引き、相手の右足外側へと踏み換えている。
最後に、ここまでの四正推手の流れを動画で見てみましょう。
以下、攻守を入れ替え、連綿と続けていきます。
四正推手からの変化
基本となる四正推手を習得した後は、少しずつ太極拳の技法を用いた変化を学んでいきます。
一例として、太極拳の代表的な技法である単鞭への変化を紹介しましょう。
この動画では、先に紹介した四正推手の動画の後、按で押さえられた状態から、掤捋で反撃、そのまま双圏で巻き込んで単鞭を行っています。
後ろ向きだと分かりづらいので、肩を押さえられた状態からですが、別角度の単鞭の動画も紹介します。
双圏手で巻き込んだ後、体を密着させて螺旋勁を相手に作用させて崩します。
このように、四正推手で学んだ手法や歩法を基に太極拳独特の近接技法の習得を目指していきます。
楊式太極拳 対打
当派の場合は、四正推手を学んだ後、楊式太極拳の対打套路を学んでいきます。
対打の前半の一部を紹介します。
楊式太極拳の対打套路に興味のある方は、以下のページで紹介しています。
まとめ
今回は、四正推手の意味や特徴、また分解写真を用いた解説を行ってみましたが、いかがだったでしょうか。
今回の記事を書くにあたり、四正推手の動画をいくつか見てみましたが、ほとんどの動画では掤と捋のみで、くるくる回しているだけのようでした。
擠や按については、省略された状態で伝わっているのか、公開していないかのどちらかなのかもしれません。
また歩法についても、くるくる回しながら、前に出たり、下がっているのみで、換歩などの基礎的な歩法もほとんど見られませんでした。
私が学んだ師は、推手は手が二分で足が八分と仰っていましたし、四正推手の練習は、相手を崩したり、封じたりしながら、歩法でも相手の自由を奪い、太極拳独特の摔法(投げ技)や擒拿へと発展していくものですが、そういった練習を行っている門派は、かなり少ないようです。
今後も当会では、四正推手の研究を進め、太極拳独特の攻防技術の習得に励んでいきたいと思います。
当会に興味を持たれた方は、【湧泉会の特徴】のページをご覧下さい。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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