今回は、陳式太極拳の倒捲肱と楊式太極拳の倒攆猴の意味や動作の違い、用法例を比較研究してみたいと思います。
倒捲肱と倒攆猴の意味
まず、両者に共通する「倒」には、以下のような意味があります。
- 倒れる。倒す。横になる
- 潰す。潰される
- (手などを)替える。交換する
- (上下、前後、左右、表裏が)逆になる。逆さまにする
- 副詞として反対に
倒捲肱の意味
陳式太極拳の倒巻肱の「巻」には、そでやズボンのすそを巻く、紙などを円筒形に巻くなどの他、風などが砂を巻き上げる。渦の中に巻き込まれるなどの意味もあります。
また、「捲」には、下からまくり上げるといった意味もあります。
倒巻肱の「肱」の字は、肘(ひじ)ですが、どちらかというと、肘から肩にかけての上腕部をさします。
となると、倒巻肱でどのようなイメージになるでしょうか?
動作を見ると、前ではなく(反対に)後ろに下がりながら、肘(剣)を下からまくり上げています。
おそらく、この太極剣の技法名が採用されたのだと思いますが、素手の太極拳の倒巻肱は、どちらかというと上から下へ弧を描く軌道となります。
倒攆猴の意味
次に楊式太極拳の倒攆猴の意味についても考えてみましょう。
倒攆猴の「攆」は、追い出す。追い払う。追いかけるといった意味です。
倒攆猴の「猴」は、猿(さる)ですが、形容詞として「(猿のように)素早い、すばしこい」、また(猿のように)背を丸めてしゃがむといった意味もあります。
陳式太極拳 老架式の倒巻肱は、本来は猿のように素早い動作で、相手の攻撃を払いながら、ジグザグに後退する技法でした。
動作をイメージすると、倒攆猴のほうが、しっくりきますね。
また当派の楊式太極拳の倒攆猴には下勢で行う技法も伝わっており、その意味を鑑みるに猿のように背を丸めてしゃがみ、相手を地面に叩きつぶす技法と考えられます。
倒巻肱と倒攆猴の動作比較
それでは、私がこれまでに学んだ「倒巻肱」や「倒攆猴」を動画で比較してみたいと思います。
陳式太極拳 老架式 倒巻肱
陳式太極拳 老架式の倒巻肱は、前述したように、圏猿手(逆雲手)で相手の攻撃をさばきながら、ジグザグに後退していきます。
また、猿が引っ搔くように、相手の顔面をはたく【拍掌】という打法も含んでいます。
陳式太極拳 新架式 倒巻肱
陳式太極拳 新架式の倒巻肱は、下方に圧する意識と身体を開く動作を用い、纏絲勁を発生させます。
改めて動作を確認してみると、両手が交差する際、そでをまくっているようにも見えます。
また、両手を前後に入れ替えており、倒の意味の一つである(手など)を替える。交換するといった解釈もできます。
楊式太極拳 倒攆猴
楊式太極拳の倒攆猴は、新架式の倒巻肱をさらに凝縮し、抽絲勁(ちゅうしけい)を用い、やや立円の軌道となります。
歩法は、ジグザグではなく直線上を退歩します。(実用時は、様々な歩法に変化します)
身体は開かず、凝縮するため、【猿背】の意識が強くなります。
倒捲肱と倒攆猴の用法例
前述したように、本来の倒捲肱は、圏猿手(逆雲手)で相手の攻撃をさばきながら、ジグザグに後退する技法でした。
用法例を察するに、例えば陳式太極拳の老架式であれば、相手の連撃を倒巻肱でさばききった後、白鶴亮翅で一旦間を取り、相手を誘う光景が浮かびます。
白鶴亮翅については、こちらのページをご覧ください。
新架式の場合は、纏絲勁を発生させると同時に開勁の意があります。
一例としては、倒巻肱で相手の攻撃をさばきながら、相手の両腕を開き、靠(体当たり)で反撃する構図も描けるでしょう。
同様に、相手の両腕を巻き取りながら、摔法(投げ技)への展開も考えられます。
また、纏絲勁を発生させる事から擒法(関節技)への発展も考察できます。
楊式太極拳の場合は、手首をつかまれた状態から、短打の倒攆猴を放って、相手の受けを誘い、そこを支点に相手の後方に回り、劈掌を放つなどの用法も考えられます。
楊式太極拳や陳式太極拳の他の用法例については、以下のページで紹介しています。興味のある方はご覧下さい。
〇 陳式太極拳の用法例は、【陳式太極拳の技法研究】で紹介しています。
〇 楊式太極拳の技法は、【楊式太極拳の技(用法)】にまとめてあります。
まとめ
今回は、陳式太極拳の倒巻肱と楊式太極拳の倒攆猴の意味や動作の違い、用法例などを比較してみましたが、いかがだったでしょうか。
中国では技法名は、口頭で伝えられており、後から文字を当てはめている事が多々あります。
倒捲肱と倒攆猴のように、門派によって伝わっている漢字が異なる場合は、それぞれの言葉の由来を調べてみると良いと思います。
私も今回改めて調べてみて、こういう意味もあるのかと勉強になりました。
そうする事で、用法の解釈も幅が広がると思います。
倒巻肱と関連の強い、以下のページもご参考下さい。
摟膝拗歩(ろうしつようほ)の意味、型の分解動作や用法例を紹介しています。
提手上勢(ていしゅじょうせい)や手揮琵琶(しゅきびわ)の意味や用法例について紹介しています。
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