本記事では、太極拳や八卦掌などの中国武術(カンフー)で使用される手型(手の形)と実際の使用例について紹介します。
Contents
中国武術の手型(手の形)
中国武術で用いられる手型には、主に以下のような形(種類)があります。
- 掌
- 背掌
- 手刀
- 拳
- 貫手
- 勾手
- 肘
- 肩
また、実際には、それそれの手型を用いる際の力の方向や微妙な感覚の違いによって、技法の名称が変わります。
順に説明していきましょう。
掌を用いた打法
掌を用いた打法は、攻防の転換を早急に行う事ができ、かつ独特な衝撃を発生させます。
中国拳法には多種多様な掌打があります。代表的な技法を紹介していきましょう。
基本となる掌打
まずもっとも基本となる二つの掌打を紹介しましょう。
陳式太極拳 懶扎衣
下から上への螺旋状の力を源泉に、纏絲勁を発生させ、右掌より発します。
陳式太極拳では、この懶扎衣をいかに深め、いかに相手に当てるかを戦術の第一歩と考えています。
懶扎衣の戦術や用法などは、こちら のページで詳しく解説しています。
楊式太極拳 摟膝拗歩(迎面掌)
螺旋形の力を用い、掌を打ち出す仕組み(内功)を体の中に作っていきます。言ってみれば、大砲を打つ仕組みを体の中に作ります。
懶扎衣が順歩であるのに対し、摟膝拗歩は拗歩(逆突き)での掌打となります。
相手を誘い、捕らえ、掌を打つ、太極拳の代表的な戦略を表現した技法です。
摟膝拗歩の型の分解動作や用法例は、こちら のページで詳しく解説しています。
蓋掌(がいしょう)
蓋(がい)とは、ふたを意味し、上から下へ覆いつくすような打法を指します。
陳式太極拳 六封四閉(蓋掌)
頭部や胸部を強打する打法です。この打法は、陳式太極拳の高探馬などでも見られます。
六封四閉の型の分解動作や用法例は、こちら のページをご覧下さい。
八卦掌の蓋掌
蓋掌は、八卦掌でも多用される技法の一つです。
老三掌の双換掌や順勢掌などの套路に含まれています。
劈(へき)の力を源泉とし、上から下への落とす力を前方への力に変換して発します。
撩掌(りょうしょう)
撩とは、膝からみぞおち位までの範囲で、下から上へとまくり上げる動作の事を言います。
撩陰掌
撩掌の中で、特に下陰部を狙った技法の事を撩陰掌と言います。
托掌(たくしょう)
托は、手の平などに物を載せる。あるいは手で物を上に押し上げるなどの意味です。
托掌は、お腹から口位までの範囲で、托し上げる、打ち上げる打法となります。
下の動画は、陳式太極拳の金剛搗碓の用法例の一つですが、まず金的を狙った撩陰掌を行い、そこから托掌で打ち上げ、最後に顔面への裏拳打ちを行っています。
このように、複数の技法を一連の線の動きで行うのが太極拳や八卦掌の特徴の一つです。
撞掌(どうしょう)
撞とは、衝撃を意味し、体全体で突っ込むような打法の事を言います。
陳式太極拳 六封四閉(撞掌)
纏絲勁を用いた陳式太極拳独特の技法です。
八卦掌の撞掌
撞掌は、八卦掌でも重要視され、片手で打ち込む技法を単撞掌、両手で行うものを双撞掌と言います。
背掌を用いた打法
手の甲は衝撃に弱いため、頭部を習う場合は、軽くはたくように打ちます。通背拳の摔掌と同様の技法です。
手刀を用いた打法
打つ軌道と、打ち方によって、劈、切、削 などの違いがあります。
劈掌(へきしょう)
劈とは、上から下へ斧を振り落とすような技法の事を言います。
実用時には、主に相手の後頭部(首)などを狙います。
切掌(せっしょう)
切掌には、主として二つの技法があり、一つ目は、文字通り、相手を切る、切断するような技法で、主に横方向に発します。
もう一つの切掌は、螺旋状の力を、手刀に集約させ、直線的に打つ打法です。
陳式太極拳 白鶴亮翅
白鶴亮翅の左下段払いを応用した切掌を紹介します。
後半は、前方へ直線的に突き込む切掌を行っています。
陳式太極拳 六封四閉(切掌)
六封四閉には、多種多様な用法があります。詳細は、こちら のページをご覧下さい。
陳式太極拳 単鞭
単鞭には、他にも様々な用法があります。詳しくは、こちら のページをご覧下さい。
削掌(さくしょう)
削掌は、相手を削る。削り取るように打つ打法の総称です。
切掌が主に開く力を源泉とするのに対し、削掌は開合の合の力(閉じる力)を用います。
相手の側頭部や首筋を削り取るように打ちます。
八卦掌では、順勢掌の動きに含まれています。
貫手を用いた技法
貫手は、太極拳ではあまり使用されませんが、八卦掌の貫手の使用例を紹介しましょう。
八卦掌 穿掌(せんしょう)
穿には、キリのようなもので穴を開ける、突き通す、貫くなどの意味の他に、ズボンなどを穿く(履く)意味があります。
実際、片方の腕の中に、もう一方の腕を突き入れ、シャツの中に腕を履き入れるような動作です。
穿掌は、単に指先で突くだけでなく、相手の攻撃と交差し、防御技法としても多用されます。
八卦掌 探掌(たんしょう)
探は、探索の探。目に見えない高い棚の上などを探るといった意味があります。
用法的には、穿掌などで相手攻撃に交差した後、相手の顔を探るように打ち出します。
探掌は、体を一切捻じらす、体を開く力を開かせずに、一本のレールに載せて、前方へと導きます。
貫手は強度的な問題があり、狙う箇所は、目やのどなどに限定されます。
拳を用いた技法
ここまで掌打や手刀、貫手など手を開いた技法を中心に紹介してきましたが、太極拳や八卦掌にも拳を用いた技法があります。
代表的な技法は、陳式太極拳の演手捶、楊式太極拳の搬欄捶などです。
陳式太極拳 演手捶
正面の相手というよりも、相手と密着し、捕らえた状態での打法です。
楊式太極拳 搬欄捶
実用時は、意 → 拳 →体の順に発動され、結果として跟歩となります。
陳式太極拳 白猿献果
ボクシングのアッパーカットのように体は捻じらず、伸縮運動を用い、ピストンのような動きで力を発します。
勾手を用いた技法
螳螂拳などでは、五指を揃えた指先で突く技法がありますが、太極拳や八卦掌の場合は、勾手そのものよりも前腕全体を用いる事が多く【腕打】と言います。
また腕打に開合の合、外側から内側に向けての腕打もあります。
下の動画では、下から上への腕打を打ち上げた後、外側から内側への腕打に変化しています。(最後に前後の挟み撃ちによる掌打も行っている)
今回は紹介しませんでしたが、八卦掌には穿掌のように、前方へ打ち出す腕打もあります。
肘を用いた技法
中国武術では、肩甲骨から指先までを腕と考え、肘や肩を用いた技法も手型の一種として捉えています。
後半に行っている肘による打撃が順身肘です。
肩を用いた技法
肩を用いた打法も中国武術の特徴の一つです。相手との間合いが詰まり、手も肘も使えない場合に用います。
双推手からの変化として、相手の両手を開いて崩した後、左肩で体当たりを行っています。
まとめ
今回は、中国武術(太極拳や八卦掌)で使用される手型とその使用法や変化技法までを紹介してみましたが、いかがだったでしょうか。
実際には、手の形が先にあるのではなく、技法や身法が先にあり、その技法をより効果的に発揮するために、それぞれの手型に発展していったのだと思います。
太極拳や八卦掌などの中国武術では、打突部位に応じて様々な手形を用いますが、一番重要な事は、相手との状況に応じ、適時適正に変化させて用いる事です。
機会があれば、肘法や靠法についても、紹介したいと思います。
今回も最後までお読み頂きありがとうございました。
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中国武術(太極拳や八卦掌)の蹴り技の基本概念、種類、使用法については以下のページで紹介しています。
陳式太極拳の各技法の套路(型)の動きと、用法例(打法、摔法、擒拿)を紹介しています。
楊式太極拳の各技法の套路(型)の動きと、用法例(打法、摔法、擒拿)を紹介しています。
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