今回は、陳式太極拳の六封四閉について、その言葉の意味や型の分解動作、用法例などを写真や動画を多く使用して紹介します。
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六封四閉、如封似閉、抱虎帰山の意味?
六封四閉(ろくふうしへい、または、ろっぷうしへい)は、陳式太極拳特有の技法名で、楊式太極拳では如封似閉(にょふうじへい)の名称が使われています。
発音は、どちらも同じ(ルーフォンスービ)です。
中国では、技法名や要訣は口伝として伝えられてきたため、発音の同じ文字を後々当て字として使用している場合があります。
また台湾に伝わった陳氏太極拳の流派では、抱虎帰山(ほうこきざん)の名称で伝わっています。
後述する用法を考えると、如封似閉が、「閉じるに似て、封じる如く」と一番しっくりくる気がします。
ただ、六封四閉の六や四といった数字も気になります。
以下の動画を見て、六や四を感じる所はありますか?
六封四閉では、陳式太極拳独特の虚歩を用いますが、陳式の虚歩は、重心の割合がおおよそ6:4となります。
この虚歩は、主に陳発科系の陳式太極拳の特徴で、陳家溝系の老架や台湾の杜氏系の場合は、おおよそ8:2位となります。
抱虎帰山は、直訳すると「虎を抱いて、山に帰す」です。
襲ってきた虎を抱いて、諭して山に帰すといった意味でしょうか。
これも推手や用法として考えると、一理ある気がします。
拳譜にない六封四閉
ちなみに私の頂いた古い時代の小架式の拳譜には、六封四閉も如封似閉も、まして抱虎帰山の記載もありません。
動作も立円を描いて、斜め前方を双按する。現在広まっている六封四閉の動作とは異なっています。
理由の一つは、元々の六封四閉の動作は、単鞭への過渡式だったように思われます。
また一説には、楊式太極拳の攬雀尾から、逆輸入されたとの説もあります。
楊式太極拳の創始者である楊露禅は、元々は大変身分の低い立場でしたが、後に清朝皇族の武術教官まで登りつめましたから、後年は陳家溝では憧れの存在だったのかもしれません。
この攬雀尾の動作の流れ(ポン、リー、チー、アン)をどこで区切るか、どこを定式とするかで、陳式と楊式では、動作の名称が異なります。
右ポン勢からリー勢へ変換する瞬間を切り取って定式としたのが、陳式太極拳の懶扎衣です。
そのままリー勢から、チー、そして双按への流れは、内面的には陳式の六封四閉と同じです。
詳しくは、六封四閉の分解動作で説明します。
このように套路の中のどこを定式とし、過渡式とするかは、各個人の考え方があり、また意図的に用法を隠すためでもあります。
2021年6月追記
これは、最近聞いた話ですが、六封四閉には、六面(上下、前後、左右)を封じられ、四方(東西南北)あるいは四隅を閉じられた状態という意味もあるそうです。
確かに六封四閉は、双手で行う技法でもありますし、両手を封じられ、上下、前後、左右、その他の方向も全て閉じられ、それでも歩法と身法(内功)を用いて、何とか脱出し、反撃する。
そういった気魄やイメージも湧いてきます。
六封四閉の套路(型)の分解動作
本項では、陳式太極拳 六封四閉の套路の分解動作を見てみましょう。
陳式太極拳の第一手である懶扎衣は、ポンから始まりますが、六封四閉はリー勢から始まります。
本来のリー勢は、相手を引き寄せ、地面に叩きつける技法です。
リー勢から、上へ向かうポン勢へと換勁します。この動作は、提とも言えます。
引き寄せた相手が、引き返そうと抵抗した場合は、その力に乗りつつ、相手の力を上方へと導きます。
ポン勢から、チー勢への変化。
上半身の動作よりも重心移動を意識し、相手の力を封じたまま、相手に密着します。
最後は、下方への按勢で収めます。
六封四閉の套路(型)の中での流れは、以下の動画でご確認下さい。
六封四閉の前式である懶扎衣、六封四閉の次式である単鞭への流れは、老架式と同じです。
六封四閉の用法例
本項では、六封四閉の套路(型)の動き通りに、四正手(ポン、リー、チー、アン)を用いた用法例を紹介します。
- 相手の左手に右手で下から接触しポン、相手の右手には左手で上から接触し按。
- 右手はリーに変化し、相手の左手を上から下へ、左手は按から摟に変化し、相手の右手を下から上へと交差し、巻き込む。
拡大すると、以下のようになります。
「閉じるに似て、封じるが如し」です。
連続すると、以下のようなイメージとなります。
六封四閉の打法を用いた用法例
前項では、六封四閉の套路の動き通りの用法例を紹介してきましたが、本項では六封四閉の打法を用いた用法例を紹介します。
六封四閉の動きを打法として用いた技法は、いくつかありますが、代表的なものとして、切掌と蓋掌、そして撞掌を紹介しましょう。
六封四閉の切掌
切掌(せっしょう)は、切る掌と書き、手刀部を用いた打法です。
ただし、カラテチョップのように、横から振り打つのではなく、らせん状の力を用い、ほぼ直線の軌道で打ち出します。
六封四閉の切掌の動画を見てみましょう。
六封四閉の切掌は、らせん状の力を用い、身体を圧縮しながら、相手の肝臓を目がけて、打ち込みます。
外見はシンプルですが、速度と威力を併せ持った稀有な打法です。
一つの応用例としては、陳式太極拳の懶扎衣(らんざつい、右手による顔面への掌打)と連絡して用いる技法があります。
この技法の対人練習は、懶扎衣のページ【太極拳の戦略と戦術2】で、分解写真を用いて、詳しく解説しています。
六封四閉の蓋掌
次に紹介するのは、六封四閉の蓋掌(がいしょう)です。
蓋(がい)は、お鍋のふたの事です。
つまり、鍋にふたをするように、相手を覆いつくすような軌道で打つ技法です。
蓋掌の勁道は、六封四閉の定式から、次式の単鞭へと向かう過渡式の部分を技法としています。
所謂、套路では隠している部分の用法の一つです。
六封四閉の定式までの動作を防御とし、そこからS字を描き、相手の頭部や胸部を掌撃します。
用法としては、相手の攻撃にポン勢で接触、そのまま後方下方へと相手を導きながら、蓋掌で反撃します。単推手の∞の字推手の軌道を用います。
陳式太極拳の技法の中でも、かなり強烈な打法の一つです。
六封四閉の撞掌
撞掌(どうしょう)は、六封四閉の蓋掌の動作を徐々に縮小し、螺旋の力を纏絲へと転化した技法です。
用法例としては、相手の右拳による攻撃に対し、ドリル状のポン勁で交差、そのまますべり込むように、体ごと打ち込みます。
撞掌系の技法は、纏絲(キリ)で穴を空け、そこへ強大な釘を、体(ハンマー)を使って打ち込みます。
撞掌の他の用法例としては、前式 懶扎衣のリー勢を用いて、相手の左側頭部を打ち、相手が防ごうとした瞬間に、相手の左手を巻き込み、胸部を開け、撞掌を打つ場合などもあります。
写真で見て分かるように、相手の両腕を開き、胸部へ撞掌を打っている状態が、六封四閉の套路の形となります。
間合いが近ければ、靠(カオ、肩口での体当たり)を行います。
六封四閉を用いた連打
最後に六封四閉を用いた連続撞掌を紹介しましょう。
連打は、ボクシングなどでも同じですが、相手が何らかの原因でバランスを崩した瞬間に連撃します。
動画では同じ箇所を打っていますが、実際には、上下に打ち分けて打つ事も可能です。
六封四閉の内功(体を動かす仕組み)を活用した連撃です。
内功については、こちらのページで解説しています。
まとめ
今回は、陳式太極拳の六封四閉について、その言葉の意味や型の分解動作、用法例などを紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?
10年前であれば、見せる事も、話す事もなかった技法例も一部公開してみました。
理由は、若い人達にも太極拳に興味を持ってもらいたいと思ったからです。
六封四閉は、陳式太極拳の母拳とも言える懶扎衣との関連性が非常に高い技法です。
懶扎衣が単按(片手による按)であるのに対して、六封四閉は双按を用います。
また懶扎衣は上段を狙うのに対し、六封四閉は主に中段を狙い、その点でも陰陽の関係となっています。
昔の太極拳修行者が懶扎衣一手のみを与えられ、その懶扎衣を当てるためには、中段に意識を散らしてから打とうとか、懶扎衣を避けられそうな場合は、六封四閉に変化するとか、色々と研究したのでしょうね。
その思いを、六封四閉の動作に秘めたのだと思います。
六封四閉については、気付いた事があれば、今後も追記していきますので、たまに本ページを読み返してみて下さい。
当門には、懶扎衣の対練の変化として、六封四閉の対練なども伝わっています。
陳式太極拳の他の技法については、【陳式太極拳の技法研究】のページで紹介しています。
当会に興味を持たれた方は、【受講案内】のページをご覧下さい。
今回も、最後までお読み頂きありがとうございました。
太極拳の代表的な技法である単鞭の型の分解動作や用法例、 古伝の楊式小架式単鞭の動画も紹介しています。
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初稿 2020年8月15日
二稿 2021年6月18日
双手とは、両手を同時にしか動かせない状態で、ある意味手枷(手錠)をはめられた状態