
ここからは、【内功について】の第二部として、内功を身に付ける事で具体的に何が可能になるのかを見ていきましょう。
Contents
内功を身に付ける事で何が可能になるのか?
伝統太極拳の内功を身に付ける事によって、以下のような事が可能となります。
- 内功による瞬発力の習得
- 内功を用いた連続技法
- 内功による化勁
- 攻防一体の実現(線撃)
- 内功による健康面の充実
順に説明していきましょう。
内功による瞬発力の習得
身体内の様々な部位が噛み合うようになれば、内功による瞬発力を発する事ができるようになります。
内功による瞬発力の特徴は、全く予備動作を必要としない事です。
一般的には【発勁】と呼ばれているようです。
ただし、一般的な陳式太極拳の表演などで行われている発勁と、当門の【内功による瞬発力】は、若干ニュアンスが違うように感じています。
その理由は、一般的には、套路(型)の動作のまま発勁するようですが、当門の場合は、套路の動きと実際の技法の動きが異なり、基本的には勁を発する場合は、技の動きで行います。
内功そのものを動かした動作=技の動きとなる
内功による瞬発力を用いた技法をいくつか紹介しましょう。
楊式太極拳 双按
内功による瞬発力を発する場合は、ブレーキを踏んだ状態で、アクセルをふかしていき、一瞬だけブレーキ外し、再び急ブレーキをかけるような意念を用います。
感覚が身に付けば、意識だけで発する事も可能となります。
陳式太極拳 懶扎衣(らんざつい)
続いて、陳式太極拳の第一手、懶扎衣の発勁動作を紹介しましょう。
套路(型)で、身体を動かす仕組み(内功)を作り、内功により、勁を発したものが発勁となります。
懶扎衣の習得は、太極拳修行者の必須項目となります。
懶扎衣について詳しくは、こちらのページをご覧下さい。
陳式太極拳 六封四閉(撞掌と切掌)
六封四閉は、相手の両腕を封じた状態での投げ技や推撃(押し技)として紹介される事が多いですが、今回は六封四閉の撞掌と切掌を紹介します。
六封四閉の撞掌は、纏絲勁を用い、身体を膨張→圧縮させながら胸部を打つ、非常に強烈な打法となります。
六封四閉の切掌は、身体を圧縮させる力と共に纏絲勁を用いて手刀部を打ち出します。
相手の肝臓部を狙い、太極拳式のレバーブローとも言えます。
威力と速度を混在させた打法です。
六封四閉の用法例など、詳しくは、こちら のページで解説しています。
陳式太極拳 単鞭(たんべん)
続いて、陳式太極拳の単鞭の套路と内功による瞬発力も見比べてみましょう。
陳式太極拳の単鞭は、先に紹介した楊式太極拳の単鞭と比べると、より開勁を重視し、落式では身体を緩め沈勁を使用します。
では、単鞭の内功による瞬発力を見てみましょう。
套路の動きでは、身体を大きく開いて使いますが、実用時は開こうとする力を、あえて開かせずに、ほぼ直線の軌道を通ります。
太極拳式のジャブと言っても良いかもしれません。
この動画では、最短で相手に届かせるように、速さ重視で発していますが、逆に重さを載せるような打ち方をする場合もあります。
単鞭について詳しくは、こちら のページをご覧下さい。
陳式太極拳 演手捶(えんしゅすい)
最後に、陳式太極拳の代表的な突き技である演手捶を紹介します。
双按と同様に、まったく予備動作を必要としていないのが分かると思います。
次に内功による瞬発力を用いた演手捶の拗歩捶(逆突き)と順歩捶(順突き)をスーパースロー再生で見てみましょう。
スーパースローで見ると、拳が射出されている間、外見上は、身体がほぼ静止しているのが分かると思います。
身体は捻じらす、腰も入れていませんから、表面上は、手打ちのように見えます。
ただし、ただの手打ちではない事は、一般の方でも感じて頂けるのではないでしょうか。
身体内面では、纏絲勁を生じさせ、拗歩捶では、合勁(開合の合わせる力)を用いて打ち込みます。
分別上、拗歩ではないので順歩捶としていますが、内功が噛み合ってくれば、順歩や拗歩といった区別は無くなります。
順歩捶では、意識の発動と共に拳が射出され、身体は相手に吸い込まれるように引っ張られていきます。
感覚的には、相手に吸着していくような感じです。
進歩(後ろ足を前に差し出す歩法)は、身体を止めるために行っているようなものです。
一般的な陳式太極拳の発勁とは、だいぶ感覚が違うのが見受けられると思います。
このように、套路(型)では、身体を動かす仕組み(内功)を作り、内功そのものを動かしたものが技となります。
武術として太極拳を学ぶ場合は、この段階は、一つ一つの技法を【実際に使える武器】として習得していく段階と言えます。
内功を用いた連続技法
一つ一つの技法の内功を身に付けた後は、応用としての連続技法を学びます。
太極拳の内功を用いた連続技法の特徴は、一つの技法の打ち終わりが、終わりではなく、そこから再度ギアを回転させたり、逆回転させたりします。
また、同じ腕で続けて打つ場合もありますし、もう一方の手につなげて打つ場合もあります。
いくつか代表例を紹介してみましょう。
太極拳 雲手(うんしゅ)
伝統套路(型)では、雲手は中盤(三段)以降に出てきます。それだけ高度な内功を用いた技法だという事です。
ここまで紹介してきた技法は、基本的には一動作(一挙動)で一つの技法でした。
雲手の内功の特徴は、一動作で左右の二動作を同時に行うところにあります。
具体的には、左雲手の軌道の途中で、右雲手へのギアもつなぎ、一動作で左右の雲手となります。
動画の後半では、左右への双劈手(別称:双鞭)を行っています。
双劈手は、言ってみれば、右の懶扎衣と左の単鞭を一動作内で行っているような技法です。
多人数に囲まれた際などに左右の敵を打ったり、牽制する技法です。
続いては、雲手の双劈手を応用した、雲手の挟み撃ちを紹介します。
雲手の挟み撃ちは、正面の敵に対して、左右から挟み撃つ打法です。
1,2と右、左で打つのではなく、1の中から、2を生ずる打法です。
結果としては、一挙動となり、太極拳式のワン・ツーとも言えます。
ちなみに、指先で突いているように見えますが、実際には、右 → 左と手刀で挟むように打っています。
雲手の項の最後に、雲手の左右撞掌を紹介しましょう。
雲手の内功から生まれる主要な勁としては、劈(へき、上から下へ切り落とす)と推(すい、直線的に前方へ進む力)があり、撞掌は推の力で相手を打つ技法です。
双撞掌は、左右の敵を打つという意味もありますが、実際には次項で紹介する六封四閉など、他の技法と組み合わせて用います。
六封四閉による連続撞掌
続いて、六封四閉を用いた撞掌の連続打ちを紹介しましょう。
六封四閉の連続撞掌は、大元の流れは六封四閉ですが、内面では雲手で紹介した左右撞掌の内功を用いています。
六封四閉という外形(枠組み)の中に、双撞掌の内功を押し込め、集約した勁を使います。
動画では同じ場所を打っていますが、実際には上下に打ち分けて打つ事も可能です。
相手に何らかの打撃が当たり、相手が崩れた瞬間に用いる連打です。
太極拳の打法には、このように、二種類以上の技法の内功を組み合わせて、一つの技法とするものもあります。
演手捶を用いた二段打ち
演手捶の二段打ちは、一打目の演手捶の打ち終わりに、もう一段ギアを回して二段目を打ち出します。
一打目で相手のガードを固めさせ、相手のガードが緩んだ瞬間に二打目の演手捶を打つ技法です。
手でチョンチョンと突いているように見えますが、スーパースロー再生で見ると、二打目もしっかりと打ち込んでいるのが分かると思います。
金剛搗碓(上下の切り返し)
この項目の最後に、陳式太極拳の金剛搗碓を用いた上下の切り返し動作を紹介します。
まず金剛搗碓の套路の動きを見てみましょう。
金剛搗碓は、どうしても震脚をして手を打ち付ける部分に目が行ってしまうのですが、套路の中に左撩掌と右撩掌(下から上へ向かう掌打)が含まれているのが分かると思います。
金剛搗碓の切り返し動作による打撃は、右撩陰掌から、右翻捶(裏拳打ち)へと上下の切り返しを行います。
動画で見てみましょう。
前半部分の右撩陰掌→挑掌は、前述した演手捶の二段打ちと同じ原理を用いています。
身を沈め撩陰掌を放ち、そこからギアを順回転させ、上段への挑掌へと繋ぎます。
後半の右挑掌から、右翻捶へは、逆にギアを逆回転させて打っています。
このように、内功による瞬発力を用いる事で、一挙動で3動作の連撃といった事も可能となります。
対練でも見てみましょう。
格闘技的に言えば、コンビネーションという事になりますが、太極拳の場合は一挙動、一つの動作の起こりの中で、2~3手をほぼ同時に行うのが特徴です。
スローで見ると以下のようになります。
今回は、切り返し動作のみ紹介していますが、実際には太極拳の套路に含まれる様々な技法を組み合わせて行う事が可能です。
ただし、内功を伴っていないと、単なる手わざとなってしまうため、注意が必要です。
切り返しを用いた技法は、他にいくつもありますが、詳しくは、【太極拳の実用性の研究】のページをご覧下さい。
内功による化勁

化勁についても、一言で言えば、やはり内功で行うという事になるでしょう。
化勁には大別すると、「出」と「引」があり、いずれも纏絲勁を用い、相手との接触時に、力の方向を見失わせる技術です。
人間は相手との接点を通じ、相手の力の方向を理解し、押されたら押し返し、引かれたら引き返します。
それは力の方向が分かっているからです。
それに対し、太極拳の化勁をかけられると、見た目と接点を通じて感じる力の方向に差異を感じ、どの方向に力を出して良いのかが分からなくなります。

観察してみると、ある程度の力を出したまま、どの方向に力を出して良いのかが分からず、身体が硬直してしまうようです。
この状態から、大きく崩す事もできますが、太極拳の本質を言えば、相手をこの状態に維持させたまま、上記で紹介した連撃の渦に巻き込んでしまう戦術を特徴としています。
推手や対練を行っていると、こちらの動きは止められてしまうのに、相手の動きは止められずに押し込まれてしまう事があると思います。
そういった方は、感覚的に化勁を身に付けてらっしゃるのでしょうね。
残念ながら、化勁に関しては写真や映像で表現しても、体感して頂かないと、分からないと思いますので、実際に学びに来て頂くしかないですね。
攻防一体の実現(線撃)
武術の理想としては、攻防一体で相手の動きを制御しながら、一方的に相手を制するところにあるのだと思います。
もちろん太極拳もそれを目指しますが、実際には相手もこちらを倒しに来る訳ですし、抵抗もする訳ですから、難しいですよね。
当門の場合は、前述した化勁を用いる事によって、相手の動きを一時的に停止させ、そのまま攻防一体の動きに巻き込んでしまう戦術を一つの柱としています。
人間は、押されたら押し返す、引かれたら引き返すといったように、相手の力の方向が分かっていれば、抵抗しようとします。
これが、【化勁】をかけられてしまうと、一時的にですが、力の方向を見失う事になります。
観察してみると、ある程度力を出している状態で、全身が固まってしまう感じです。
なぜ、そうなるのかと言うと、力の方向を見失う事によって、一時的に脳がパニックを起こし、どの方向に力を出して良いのかが、分からなくなるからだと思います。
太極拳の場合は、その瞬間にこちらの技の中に巻き込んでいきます。
一例として、陳式太極拳の六封四閉(中段への切掌)から懶扎衣(顔面への掌打)を紹介しましょう。
平円の六封四閉から、立円の懶扎衣へと内功をもってつなげており、太極拳の特徴である立体的な技法を表現しています。
次に分解写真で解説してみましょう。

上の写真は、相手の攻撃をポン勢で受ける、あるいは自分から仕掛けた状態です。
この接触時に相手に化勁をかけると、相手は一時的に力の方向性を見失います。

化勁をかけた状態を維持したまま、左手にバトンを渡し、右切掌(六封四閉)を打ちます。

相手が右切掌に反応した瞬間、相手の左手を制御し、そのまま上に切り返して、右懶扎衣を打ちます。
動画にすると、以下のようになります。
(上記の動画は、一度だけだと、分かり辛いので、同じ動画を二度つなげています)
太極拳の実用時の動きが速いというのもありますが、相手は何が起きたのか分かっていない状態なのは感じて頂けると思います。
ゆっくりと動くと、このような感じになります。
いずれにしても、単なる速さだけでなく、化勁によって相手の動きを一時的に封じた状態で行います。
このように、化勁を用いる事により、攻防一体を一本の線で行っているのが分かると思います。
太極拳の武術的な側面に関しては、【太極拳の実用性の研究】のページをご覧下さい。
内功による健康面の充実

ここまでは、内功を身に付ける事によって、武術的にどのような効果があるのかについて紹介してきましたが、最後に健康面について紹介したいと思います。
太極拳を学んでいる、ほとんどの方が健康法として太極拳を学んでいるのだと思います。
ただし、内功を伴わずに太極拳の型を練習していても、実際にはあまり効果が無いようにも思います。
理由は、内形や内功という概念が伴っていなければ、身体が変わっていかないからです。
身体が変わっていかなければ、太極拳はただゆっくりと拳法の型を行っているだけです。
それだけでは、多少足腰が強くなるとか、運動をしたという満足感しか得られないでしょう。
それに対し、まず内形や内功といった概念を持ち、身体を変えていく事を目的とするならば、一般的な運動では動かせない部分から体が動かせるようになっていきますし、功が進むことによって、明らかに力の概念といったものも変わっていくと思います。
その段階に至って、健康法にしろ、武術として行うにしろ、初めて太極拳を活用できるようになります。
太極拳の健康面に関しては、【伝統太極拳が体に良い理由】のページにて詳しく解説しています。
内功を身に付ける最大のメリットは?
今回は、太極拳の本質である【内功について】を紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?
最後に内功を身に付ける最大のメリットについて、お伝えしましょう。
内功とは、【身体を動かす仕組み】と紹介しました。
仕組みである以上は、その仕組みを作ってさえしまえば、無くなることはないという事です。
体力や気力と言ったものは、やはり年齢と共に衰えていくと思います。
私の場合も40代の半ばを過ぎたあたりで、急激な衰えを感じました。
気力や体力が無くなるのであれば、あとは技術という事になるでしょう?
不思議なもので、その頃を境にそれまで養ってきたものが、つながり、噛み合って、内功といったものが少しずつ理解できるようになりました。
体力や力があるうちは、それでどうにかなってしまうので、なかなか気持ちを切り替えられないのでしょうね。
また内功が理解できるようになった事で、実際の太極拳の技や戦略、戦術といったものも見えてきました。
内家拳の芽

当会で指導している練習体系を教えてくれた先生が、「内家拳というのは、芽が出るかどうかが一番大事。」と、昔よく仰っていました。
「芽が出なければ、形だけ。」とも、よく言われていました。
最初は先生の形を真似るところから入る訳ですが、いつまでも、それだけではいけないという意味だと思います。
外形を真似るところから、内形を形成し、そこから内功によって動けるようにしていく。
内功といったものは、より細分化される事で、動きが進化していきますし、思考も活性化していきます。
そこから、発想が生まれ、試行錯誤ができるようになります。
また、この段階に至ると、逆に内形(内側)が、外形へと表れてきます。
ここからが本当の意味での練習の始まりなのかもしれません。
今後も当会は、この内功にこだわった体系を練習していきたいと思ってます。
当会に興味を持たれた方は、【受講案内】のページをご覧下さい。
内功については、旧HPの【内功について】のページも併せてお読み下さい。現在とは少し考え方が違うと思います。
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