今回は、太極拳の代表的な技法である単鞭(たんべん)について、その言葉の意味や型の分解動作、用法例などを写真や動画を多く使用して、これまでの研究成果を紹介したいと思います。
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単鞭の言葉の意味
単鞭(たんべん)に関しては、ほぼ全ての太極拳流派において、単鞭の名称で共通しているようです。
太極拳の伝統套路(型)中、もっとも登場回数の多い技法であり、太極拳と言えば、単鞭と言われるほどの代表的な技法です。
単鞭の言葉の意味は、文字通り「単(ひとえ)の鞭」、単独の鞭、片手の鞭という意味です。
ちなみに双鞭という技法が伝わっている門派もあり、双鞭の場合は、両手での鞭を表現します。
あと、これは私個人の見解ですが、天秤(てんびん)という言葉も関係しているように感じています。
天秤は、中国語では天平と書き、発音は、「ティェン ピィン」。単鞭の発音は、「ダン ビィエン」です。
発音自体が、少し似ているというのもありますが、単鞭の落式が何となく天秤の形に似ていると感じませんか?
単鞭の原型は?
単鞭は、太極拳の代表的な技法の一つですが、実際には長拳系の拳法で、単勾推掌などの技法名で多く採用されています。
推掌は、推す掌で推撃を意味します。
では、単勾(たんこう)とは何でしょうか?
単勾とは、片手が勾手という意味です。
勾手は、単鞭の右手の手形で、五指の指先でつまんだような手形の事です。
勾には、曲がる、曲がったようななどの意味があり、曲がった物で捉える。ひっかけるといった意味もあります。
現代風に言えば、フックに物をひっかけるのような意味になります。
さて、この勾手ですが、実は八卦掌にもよく出てくる手形でもあります。
左手は、勾手の手形で、かつ上へねじり上げています。
この姿勢は、何を意味しているかと言うと、左手の勾手で槍などの柄あたりを持ち、そのまま背中側を通って、槍の先端近くを右手で掲げている状態です。
太極拳でも槍や春秋大刀のような長兵器を扱う際に、同じように勾手で長兵器を引っ掛けるように持ち、背中側にかつぐ動作があります。
見て頂いたら分かるように、槍や春秋大刀を右手の勾手で引っかけるように持ち、左手で相手の進行をけん制している、この動作が単鞭の原型です。
素手の拳法である太極拳では、槍や春秋大刀を持つかわりに相手の腕などを勾手で捕らえ、左手で攻撃する技法となります。
具体的な用法例は、【単鞭の用法例】の項目で紹介します。
太極拳 単鞭の套路(型)の動画
本項では、陳式太極拳、楊式太極拳、楊式の古伝小架式の単鞭の套路(型)の動きを動画で紹介します。
上の動画は、陳式太極拳 単鞭の基準架の動画です。
基準架というのは、その門派の基準となる架式、動作の事です。門派によっては基礎架とも言います。
中庸としての架式であり、この動作に、上下や開合、纏絲を強調する事で、以下に紹介する架式となります。
また落式では、沈みながら開く意識を用いています。
この架式に推の意識(前後)を強調すると、楊式太極拳の大架式の単鞭となります。
次に楊式太極拳の古伝小架式の単鞭を紹介します。
楊式太極拳の古伝小架式の単鞭は、開勁はほとんど用いず、前方への纏絲を強調した架式となります。
このように一口に単鞭といっても、実際には、各派の段階や目的に応じて様々な架式があります。
単鞭の分解動作
では、単鞭の套路の動作を分解写真で見てみましょう。
教材は、陳式太極拳の基準架の単鞭です。
その姿は、まさに天秤のようです。
単鞭の用法例
単鞭の用法例として、まず套路の動きをそのまま使用した用法例を紹介します。
実際には、この接触時に、相手に化勁をかけています。
ここまでの動作は、前式の六封四閉(如封似閉)の動作です。
この状況は、全体的にはチー勢となり、相手の攻撃を遮断、制御、封じている状態となります。
この間、右手は化勁をかけているため、握らずに引っかけているだけです。
打法としての単鞭
前項では、套路の動作通り、投げ技としての単鞭を紹介しましたが、単鞭と言えば、文字通り「鞭(むち)」としての打法があります。
ただし、打法としての単鞭を打つためには、まず太極拳の基本功に習熟し、その上で丹念に丹念に単鞭の套路の動きを練り、単鞭の内功を習得する必要があります。
下の動画は、単鞭の套路の動き→単鞭の内功の動き、そして内功による瞬発力を表現しています。
単鞭の内功は、一言で言えば、大地との接地面で生じたらせん状の力をロスする事なく、左手の鞭へと伝達する仕組みの事です。
服の動きから、らせん状の力が伝わっているのが感じられるでしょうか?
結果としては、左手の軌道は、ほぼ直線となり、最短距離で相手に届きます。
その上で、単に速いだけでなく、意識の発動と実際の動きをいかに一致させるかも重要な課題となります。
基本的には相手の目や鼻を狙い、太極拳式のジャブと言っても良いと思います。
単鞭を用いた典型的なアプリケーションを紹介しましょう。
左単鞭から、左撩掌への変化は、1セットとして、いつでも使えるようにしておきましょう。
ここまでの動きは、単鞭から、次式の金剛搗碓(陳式)、もしくは提手上勢(楊式)へとつなぐ技法です。
連続すると、以下のイメージとなります。
実際には、右の撩掌から色々なつなぎのパターンもあります。
単鞭は、双頭の蛇
単鞭を表す要訣として、「蛇」あるいは、「双頭の蛇」といった言葉があります。
単鞭自体を蛇のように使うという意味もありますが、「双頭の蛇」となると、どのようなイメージでしょうか?
もう一度、単鞭の套路(型)の動きを見てみましょう。
単鞭の套路の動きというのは、勾手を作るまでは、両手が一緒に動き、そこから左手が独立して単鞭を行っています。
つまり、勾手までが一つの技、そして勾手以降が、別の技法と捉える事もできます。
勾手以降は、これまでに紹介した単鞭の技法です。勾手で相手を捉え、左単鞭で相手を打ったり、投げたりします。
そして、もう一つは、勾手そのものを使った技法という事になります。
もう一匹の蛇は、勾手を用いた腕打(わんだ)
勾手そのものを使った技法として、腕打という打法を紹介しましょう。
この腕打の動作は、陳式太極拳 老架式の単鞭の前半部分の動作です。
腕打を用いた用法例としては、下から相手の脇腹や下腹部を狙う、あるいは外から内の軌道で相手の側頭部を打つ技法などがあります。
他にも八卦掌では、穿掌のように直線的な軌道で打つ腕打もあります。
腕打と単鞭を用いた用法例
次に腕打から単鞭への変化(双頭の蛇)の応用例を紹介します。
まず以下の動画をご覧下さい。
この動画の技法では、以下の行程を行っています。
- 下から上へ打ち上げる腕打
- 外から内への腕打
- そのまま相手の後頭部を捉え、拗歩単鞭
相対練習でイメージしてみましょう。
つなげると以下のイメージとなります。
まとめ
今回は、太極拳の単鞭について、主に応用例を中心に紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?
単鞭の右手に関しては、三才の理として、以下の関係が成り立っています。
- 上段…懶扎衣(掌打)
- 中段…六封四閉(切掌)
- 下段…腕打(勾手)
この三手を状況に応じ、いつでも打ち分けたり、連絡させる事ができるようになれば、相手を撹乱、及び捉える事が可能となります。
また、右手の懶扎衣に、左手の単鞭と言われるほど、双方が太極拳の代表的な技法であり、同時に陰陽の関係となっています。
懶扎衣について詳しくは、こちらのページをご覧下さい。
単鞭は、套路上、もっとも登場回数の多い技法であり、今回紹介した以外の用法も多数あります。
機会があれば、今後も追記して紹介するつもりですので、たまに本ページを読み返してみて下さい。
当門の場合は、拗歩での単鞭も一つの特徴となっています。
陳式太極拳の他の技法については、【技法研究 陳式太極拳】のカテゴリーで紹介しています。
当会に興味を持たれた方は、【受講案内】のページをご覧下さい。
単鞭と関連性の高い以下の技法もご参考下さい。
陳式太極拳の第一手である【懶扎衣】の型の分解動作や用法例、また太極拳の根幹的な戦術や戦略について紹介しています。
陳式太極拳では、単鞭の前式にあたる六封四閉の型の分解動作と共に、切掌、蓋掌、撞掌など六封四閉の多様な用法例を動画で紹介しています。
楊式太極拳では単鞭の前式にあたる【攬雀尾】の型の分解動作や用法例、また太極拳の根幹的な技法である四正手(掤、捋、擠、按)について解説しています。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
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初稿 2020年8月29日
二稿 2021年7月11日