本記事では、楊式太極拳の 各技法の套路(型)の動きと、用法例(打法、摔法、擒拿)を紹介しています。
※ 摔法は投げ技、擒拿は関節技の意。
Contents
攬雀尾(らんじゃくび)
楊式太極拳の攬雀尾は、掤(ポン)、捋(リー)、擠(チー)、按(アン)の四正手で構成されています。
四正手は、太極拳の攻防の要となる技法であると共に、それぞれの勁の性質を表しています。
四正の正は、四角(正方形)を意味し、各勁の向かう方向を指しています。
図にすると、以下の通りです。
では、四正手の各勢を見ていきましょう。
掤(ポン)
掤勁には、二つの意味があり、一つは抗力を全身に張り巡らせた膨張感としての掤勁、もう一つは、螺旋状の上に向かう力(螺旋勁)です。
ここでは、螺旋勁を用いた用法例を紹介します。
捋(リー)
捋にも大別すると、二つの意味があり、一つは掤勁からの転換。もう一つは、求心的な螺旋勁です。
求心的な螺旋勁は、海面の渦巻きのように、渦の中心に向かって、回転しながら引き込まれる勁の事です。
平円や立円、またスパンの大小などによって、相手の崩れ方が違ってきます。
求心的な螺旋勁を用いた用法例を見てみましょう。
動画では平円のみを表現していますが、実用時はもう少し縦の回転も加えます。
この技法は、相手の肘から縦の渦巻き状の力を作用させ、縦から平円に変化して、巻き崩します。捋の典型的な使用例です。
擠(チー)
擠にも、二つの意味があり、一つは相手に接触密着して、相手の攻撃を封じる戦術としての擠。
実際には、この後、按勁もしくは螺旋勁を用いて、相手を投げ崩します。
もう一つは、套路(型)の動きで表現しているように、螺旋勁を前方に集約した合勁としての擠です。
擠勁を相手に作用させるには、実際には化勁の技術が必要です。化勁が無いと、相手の抵抗が起きてしまいます。
化勁は、相手とこちらのジョイントを繋ぐ技術ですが、感覚的なものが大きいので、言語化するのは難しいです。
この動画では、崩した相手のフォローに失敗しています。練習相手をケガさせないように注意しなければなりません。
按(アン)
按には、下方へ圧する下按と前方へ按する前按(推)があります。
下方への按は、当然ですが無理やり力で抑え込んでも相手の抵抗が起き、相手に作用しません。
左右から力を封じ込め、相手の体を通すように沈めると、相手は膝から崩れます。
強引に力でやってしまうと、相手を引き寄せてしまう事となり、逆に相手の体重がこちらに掛かってきます。
相撲で言えば、はたき込みに失敗して押し出される感じです。下按は難しい(^_^;)
続いて、前按の用法例を紹介します。
動画だと、足をかけて押し倒しているように見えますが、実際には相手に触れた瞬間に、化勁と螺旋勁をかけ、渦巻き状の力を相手に作用させて崩します。
その他、攬雀尾には、打法としての掤、捋、擠、按もあります。詳しくは、【楊式太極拳 攬雀尾】のページをご覧下さい。。
単鞭(たんべん)
単鞭の用法例
単鞭は、前述した掤、捋、擠、按の四正手を如実に表現した技法です。
実際には、この接触時に、化勁をかけています。
崩れた瞬間、相手は硬直し、一瞬ですが動作が止まります。
このように相手に接触密着し、相手の攻撃を制御、封じている状態を擠と言います。
下の動画は、両肩を押さえられた場合の単鞭の応用例です。
体のどこか一点が接触していれば、螺旋勁によって相手が崩れます。
また、単鞭には、名称通り、鞭としての打法の役割もあります。
単鞭の型の分解動作や他の用法例については、【単鞭の研究】のページをご参考下さい。
白鶴亮翅(はっかくりょうし)
白鶴亮翅の用法例
白鶴亮翅の摔法は、前述した攬雀尾の掤の摔法の応用で、攬雀尾では、水平に螺旋勁を用いますが、白鶴亮翅の場合は縦の螺旋勁を用います。
見比べると、相手の崩れ方が違うのが分かると思います。
相手の抵抗が起きてしまった場合には、左手で相手の膝裏をすくう応用例もあります。
また、白鶴亮翅にも打法としての用法もあります。
ここでは、前式である提手上勢からの変化を紹介します。
白鶴亮翅の型の分解動作や他の用法例については、【白鶴亮翅の研究】のページをご覧下さい。
摟膝拗歩(ろうしつようほ)
摟膝拗歩の用法例
搂膝拗歩の典型的な使用例としては、相手の両手を交差して閉じ、そのまま固定して打つ技法があります。
摟膝拗歩の摔法
摟膝拗歩を応用した摔法も多数ありますが、ここでは、相手の両腕を交差して巻き込む技法を紹介します。
よく見ると、相手が回転しながら巻き込まれているのが分かると思います。
摟膝拗歩の型の分解動作や他の用法例については、【摟膝拗歩の研究】のページをご参考下さい。
手揮琵琶(しゅきびわ)
打法としての手揮琵琶
当会の太極拳には、打法としての手揮琵琶も伝承されているので、紹介してみましょう。
塔手の状態から、圧力をかけ、相手が反応した瞬間に打法へと変化しています。
手揮琵琶については、【手揮琵琶の研究】のページをご参考下さい。
搬攔捶(ばんらんすい)
進歩は、後足を前に移動する歩法の事です。この技法では、左足を後ろから前に移動しています。
搬には、「搬出する」「搬入する」のように、運ぶ。移す。動かすなどの意味があります。
技法的には、相手の右拳に接触した瞬間に化勁をかけ、若干ずらし、進歩する隙間を作ります。
攔は、塞ぐ、止める、遮るなどの意味です。進歩し、相手に接触密着して、相手の攻撃を遮ります。
搬攔捶の応用例
搬攔捶の用法例を紹介します。
実際には、この瞬間に化勁をかけ、相手の右手を下方へと運び、進歩するための隙間を作ります。
前式の攔の状態から、相手の両手を交差させて按出すれば、如封似閉です。
陳式太極拳の掩手捶と楊式太極拳の進歩搬攔捶の比較や用法例など、搬攔捶の詳細は、【掩手捶と搬攔捶】のページをご覧ください。
倒攆猴(とうでんこう)
楊式太極拳の倒攆猴は、抽絲勁(ちゅうしけい)を用い、やや立円の軌道となります。
また、身体は開かず、凝縮するため、【猿背】の意識が強くなります。
陳式太極拳の倒巻肱と楊式太極拳の倒攆猴の比較や用法例など、倒攆猴の詳細は、【倒巻肱と倒攆猴】のページをご覧ください。
まとめ
今回は、楊式太極拳の技法や用法例について紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?
そもそも中国武術の技法や用法は、各個人の体格や体質によって異なるので、一つの参考として頂ければ幸いです。
楊式太極拳の動きは、陳式太極拳と比べると、表面上は穏やかです。
外見上は纏絲や螺旋を表現しませんが、当然、楊式にも螺旋や纏絲はあります。(楊家の纏絲は皮ふの内部を通るため、抽絲勁 と呼ばれる)
理由としては、やはり、それだけ秘した。あるいは、技術が向上した結果、表面上は見えなくなったかのどちらかだと思います。
楊露禅は、陳家溝を離れた後、様々な他流派の人間と交流(この場合の交流は手合せを含む)し、そこで得た経験から、さらに工夫を加え、独特の拳論を構築していったのだと思います。
我々、凡人がその境地を知る事はできませんが、少しずつでも目指して行きたいですね。
今回、未掲載の技法は、改めて掲載しますので、定期的にこちらのページをご覧下さい。
当会に興味を持たれた方は、【湧泉会の特徴】のページをご覧下さい。
当会での学習を希望する方は、受講案内のページにお進み下さい。
今回も最後までお読み頂きありがとうございました。
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