本ページを訪れた方は、太極拳の実戦性について、あるいは太極拳がどのような戦い方をするのか、また太極拳が武術や護身術として実際に役に立つのかなどの疑問をお持ちの方だと思います。
私は、小中学校時代に剣道、高校時代はラグビー、そして10代の後半から20代の前半までは、打撃系や総合格闘技の練習をしていました。
そして、その上で太極拳や八卦掌などの中国武術を25年以上学んできました。
気付いてみると、40年近くを武道や格闘技、そして武術の世界に携わってきた訳ですが、そんな私が太極拳や中国拳法の実用性について、検証してみたいと思います。
太極拳は戦えるのか?
ここ数年、中国の太極拳家と総合格闘技の選手の試合や、日本の古武道家が、打撃系の試合に出場した動画などを見ました。
太極拳とMMAの試合は、NHK(BS)でも放送されましたから、ご覧になられた方も多いかもしれません。(youtubeなどでも公開されているようです)
いずれの試合も、残念ながら、一方的な展開で終わってしまった訳ですが、ある意味、これが伝統武術の現実かなとも思います。
この先生方が、どうこうという訳ではなく、伝統武術家が十分な対策を練らずに、いきなり格闘技の試合に挑戦しても、9割方、同じ結果となるでしょう。
実際、今の私がいきなり総合格闘技の試合に出ても、同じ結果になると思います。
原因としては、私も含めて圧倒的に練習量と技術が足りないとした上で、以下のような理由があります。
- 道場と試合では、全く状況が異なる
- ルールに応じた対策が必要
- 年齢的、体力的な問題
順に原因を深掘りしていきましょう。
道場と試合では、全く状況が異なる
これは太極拳に限らず、伝統武術家が一番陥りやすい罠だと思います。
伝統武術が格闘技に勝てない 最大の要因は、生徒に教えていて技を掛けるのと、本気でこちらを倒しにくる相手に対して技を決めるのでは、全く次元が異なるという事です。
基本的に道場での練習というのは、生徒達は学びに来ている訳ですから、先生の言う通りに技を受けようとします。
右手で突いてきてとか、手首を持ってとか、状況を設定して、技の練習をしていきます。
相手が何をしてくるのかという設定が決まっている訳ですから、その状況では、うまく技がかかるかもしれません。
これが試合や実戦となると、当然ですが、相手は設定外の事をしてくる訳です。
また、技を学ぼうなどという意識は当然なく、ただ一方的にこちらを倒しに来ます。
一言で言えば、約束組手と自由組手(散手)の違いという事になりますが、伝統武術の場合は、約束組手から自由組手へのステップが、うまくリンクしていない場合が多いと思います。
太極拳の場合であれば、套路(型)、推手、用法(約束組手)から、いきなり散手(自由組手)というのは、少しハードルが高いでしょう。
この約束組手から、自由組手へのステップが、格闘競技へ挑戦する場合は、一つの必須条件となるのは間違いありません。
ルールに応じた対策が必要
太極拳と総合格闘家の試合は、実質的には総合格闘技のルールで行ったのでしょうから、そのためには総合格闘技の技術が必要です。
少なくとも、寝技への対処法が必須でしょう。
具体的には、どう寝技に持ち込ませないか、また寝技に持ち込まれた際に、どう逃げて、どう形勢を逆転するのかといった技術が最低限なければ、寝技に持ち込まれた時点で勝敗は決していると言えます。
合気道家などの古武道家が打撃の試合に出場する場合も同じです。
やはり打撃の攻防技術が必要となるでしょう。
少なくとも、合気道や古流柔術の技を掛けるためには、相手を捕まえないといけないでしょうから、相手の打撃を防ぎながら、接触するための技術が必要となります。
太極拳の場合も同じように、搭手という相手と手首が触れた状態からの技術は、推手も含め、非常に発達しています。
この状態からの技術の一例として、金剛搗碓の用法例を紹介しましょう。
このように、太極拳の場合は、搭手の状態からの打撃技、投げ技、関節技などの技術は、非常に発達しています。
という事は、太極拳が打撃系の格闘技に挑戦するのであれば、この搭手の状態にいかに持ち込むか、また搭手の状態に持ち込むまでに、いかに相手の攻撃を封ずるかが鍵となってきます。
そのためには、太極拳の格闘技としての長所と短所を明確に把握し、ごまかさずに、そのルールに応じた対策を練る必要があるでしょう。
年齢的、体力的な問題
もう一つは、年齢的、体力的な問題といったものも現実的にあります。
50才近くになると、やはり体力といったものは、40才位の時と比べても、ずいぶんと落ちます。
私は、10代の頃から武道やスポーツ、格闘技などをやっていたので、40才位までは体力には絶対的な自信がありました。
それが40代半ば位で、一気に体力が落ちました。現在20代~30代の方には分からないと思いますが、それこそ自分でも驚くほどでした。
同時に気力や闘争心も、がたっと落ちます。
これは生物体としての宿命なのでしょう。
動物の世界でも、かつて隆盛を誇ったボス猿やライオンのリーダーも世代交代には敵わず、若いオスにボスの座を奪われ、寂しい余生を送ります。
格闘技の場合も、ピークは20代、頑張っても30代というのが現実です。
野球などの球技にしても、40代まで続ける事ができる方は、ごくまれでしょう。
これが50代や60代で、20代や30代の選手と同じ土俵で、格闘技の試合に出るとなると、それは大変な準備が必要な事が分かると思います。
年齢に応じた心・技・体
どの分野でも真剣にそれに取り組んできた方達は、引退後も技術や戦略といった頭脳を使った部分は向上していきます。
しかし、体力や反応速度がそれについていかない。
武道の世界で、心・技・体という言葉がありますが、技は伸びていく可能性があるが、心と体が落ちていってしまう訳です。
そこで、競技は引退し、指導者となる方が大半だと思います。
いずれにしても、年齢といったものを、現実的に感じた時が、今後どのような立場として、その分野に携わっていくかの分岐点となります。
私の場合は、力があるうちは、強引に力で技を掛けていた部分がありました。
今は力が無くなってしまったので、技術と戦略で技を掛けるしかありません。ごまかしは一切効かなくなりました。
一つの可能性があるとすれば、太極拳や八卦掌のような内家拳は、内功といった特殊な仕組みを体の中に作る事で、年齢を重ねても動きの質を変えていく事はできます。
一つの例としては、外見(見た目)は速くなくとも、相手には速く感じさせる突きなどは現実にあります。
また一般的な体の使い方よりは、反応してからの(実際に動く、入るといった)速度は速くなります。
つまり体力は落ちていきますが、運動の質を変える事で、体力や筋力の低下を補う可能性はあると思います。
あとは、心の部分です。
心の部分は、言い換えれば、自信の事です。
自分を信じられるかという事。
若い頃であれば、練習量がそれに直結します。
ただし、年齢が上がっていけば、若い頃と同じような練習量をこなすのは無理ですし、無茶をすればケガをします。
となれば、内功によって、運動の質を変えると共に、圧倒的な技術を身に付ける必要があります。
つまり若者に真似のできない圧倒的な動きと技を身に付けるという事ですね。
それが現実となれば、自信につながっていくでしょう。
私の場合も、その可能性を信じて、いまだに試行錯誤している過程です。
いずれにしても、伝統武術家が格闘技に対応するためには、若い頃とは違うやり方で、心・技・体を整えていく必要があります。
※ 文中に出てくる【内功】については、【内功について】 のページをご覧下さい。
太極拳の武術としてのメリットとデメリット
本項では、太極拳が格闘技に対応するために、太極拳の武術的な長所(メリット)と短所(デメリット)を明確にしていきたいと思います。
太極拳の戦術と戦略(メリット)
太極拳の武術としての長所(メリット)には、以下のような点が考えられます。
- 内功を用いた打法
- 線でつなぐ連続技法
- 相手の動きを一瞬止める化勁
そして、これは太極拳の戦術や戦略の一例とも言えます。
順に説明していきましょう。
内功を用いた打法
太極拳や八卦掌などの内家拳を正しく学んでいけば、内功といった特殊な仕組みを体の中に形成していく事になります。
この内功が噛み合ってくると、中国武術独特の瞬発力を発生させる事ができるようになります。
※ 内功について、詳しくは、こちら のページをご覧下さい。
内功を用いた打法のメリットとしては、まず一般的なボクシングや空手の突きとは異なる軌道、体の使い方から発する事ができるという事です。
一般的な打ち方とは異なる軌道や体の使い方で、打撃が飛んでくる訳ですから、実際に習得できれば、一つの優位点となります。
もう一つの利点は、五輪書で言う、「無拍子の打ち」、「二のこしの打ち」、「石火の当たり」など、独特の拍子や無挙動での打撃も可能となる事です。
残念ながら、後者のような打法は、写真や動画では説明できませんが、太極拳や八卦掌の内功を用いた打法をいくつか紹介しましょう。
陳式太極拳 懶扎衣
陳式太極拳の懶扎衣は、陳式太極拳のもっとも根幹となる右掌による打法です。
纏絲勁を用いたドリル状の力を右掌より発します。
一般的なボクシングや空手の突き方とは、かなり異なった打ち方なのが分かると思います。
懶扎衣についての詳細は、こちら のページで解説しています。
陳式太極拳 六封四閉(撞掌)
六封四閉には、様々な用法がありますが、ここでは懶扎衣からの切り返しとしての 撞掌 を紹介します。
相手が懶扎衣に反応した際に、切り返してドリル上の力を相手の腹部へと打ち込む打法です。
この技法も一般的な格闘技では見られない打法だと思います。
六封四閉の他の用法例などは、こちら のページをご覧下さい。
陳式太極拳 単鞭
単鞭は、大地との接地面で生じたらせん状の力を左手刀へと鞭のように伝達する打法です。
単鞭は、ジャブ的な使用法もありますし、相手をなぎ倒すような打ち方もあります。
単鞭について詳しくは、こちら のページをご覧下さい。
陳式太極拳 演手捶
陳式太極拳 小架式の演手捶は、らせん状の力を、開合の合の力として打つ打法です。
拗歩(逆突き)の場合は、相手と密着し、相手を捕らえた状態で打ち込みます。
順歩(追い突き)の場合は、意識の発動と共に拳が発出され、体はそれに引っ張られていきます。
八卦掌 穿掌
八卦掌の穿掌は、実際には防御技法として用いられることも多く、上下のピストン状の内功を用い、歩法を使って前方へと力を伝達します。
八卦掌については【八卦掌の特徴と基本】のページをご覧ください。
このように太極拳や八卦掌は、内功を用いた独特の身法から生ずる打法を用います。
太極拳を格闘技や護身術として活用するためには、少なくとも伝統套路(型)の前半部分の各技法に習熟し、かつ、一つ一つの技法を単独で使用できるレベルまで高めておく必要があります。
当会で指導している太極拳や八卦掌の技法は、【技法研究】のカテゴリーで紹介しています。
線でつなぐ連続技法
上記で紹介した技法は、単発のみの打撃となり、言ってみれば 点撃 です。
実用性を追求するのであれば、次の段階では、いくつかの技法を組み合わせた練習を行います。
格闘技的に言えば、コンビネーションという事になりますが、太極拳の場合は 一つ一つの点ではなく、点と点を繋げた線の動きとなるのが特徴です。
また、その過程で相手を制御し、攻防一体を理想としています。
内功を用い、一挙動(一つの起こり)で2~3の技法を繋げた【線撃】となります。
上下の線撃
上下の線撃は、縦回転のギアを順転及び逆回転させて用います。
この動画では、右手で下陰部を打ち、次に顔面をすくい上げ、最後にギアを逆回転させて裏拳打ちを行っています。
この技法の詳細な分析は、【金剛搗碓の研究】のページで連続写真を用いて解説しています。
この動画では、穿掌で相手の攻撃に交差して防御し、その瞬間もぐりこんで、相手の金的を前腕で打ち、最後に前かがみになった相手を劈掌で打ちおろしています。
身体の収縮と膨張を用いた上下の線撃となっています。
八卦掌の各技法については、【八卦掌の技法】のページで紹介しています。
らせん状の線撃
次にらせん状の動きを用いた線撃を紹介します。
らせん状の動きは、大地との接地面から生じた螺旋形の力を用い、主に横方向へ円形の軌道で発出されます。
一例として、陳式太極拳の六封四閉から、懶扎衣への連絡技を紹介しましょう。
この動画では、相手の攻撃を右ポン勢で受け、次に六封四閉の切掌で相手の肝臓を打ち、そのまま螺旋の力で上段懶扎衣へと繋げています。
この技法を対人で行うと以下のようになります。
この技法の詳細な分析は、懶扎衣のページ【太極拳の戦略と戦術2】で、分解写真を用いて、詳しく解説しています。
このように太極拳は、まず一つ一つの技法を習熟させた後、各技法を組み合わせた線の動きで、相手をこちらの渦に巻き込んでしまうのを得策としています。
今回は打撃のみの連続技法を紹介しましたが、実際には、投げ技や関節技への連環もあります。
また、太極拳や八卦掌などの中国武術では、打突部位に応じて手刀や掌など、様々な手形を用います。
ルールにもよりますが、他の格闘技が使わない技法を用いるのは、うまく活用すれば、大変有効な武器となります。
相手の動きを一瞬止める化勁
ここまで説明してきたように太極拳の戦略の一つは、内功を用いた独特の打法を用いる事、そしてそれらを繋げた線の攻撃で巻き込んでしまうところにあります。
ただし、これらの戦略も、相手が動きまくり、逃げ回ってしまえば使用する事ができません。
線撃を用いた連打も、相手が逃げてしまっては、ただの空砲です。
実際に相手に当てるためには、一瞬でも良いので、相手の動きを止める必要があります。
相手の動きを止めるには、先を取って打撃を入れた後、相手を捕えたり、歩法を用いて相手の動きを封ずる方法もありますが、その一つに 化勁 を用いたものがあります。
化勁というと、暖簾に腕押しのように、相手の攻撃(力)をすかしたり、逸らす事だと一般的には思われているようです。
それ故、脱力が大事とされています。
それに対し、当門で言う化勁とは、主としてポン勁を用い、相手との接触時に力の方向を見失わせる技術の事を言います。
人間は相手との接点を通じ、相手の力の方向を理解し、押されたら押し返し、引かれたら引き返します。
それは力の方向が分かっているからです。
それに対し、太極拳の化勁をかけられると、見た目と接点を通じて感じる力の方向に差異を感じ、どの方向に力を出して良いのかが分からなくなります。
上の写真は、搭手の状態でお互いに押し合っているように見えます。
しかし、実際には黒服のほうがポン勁を用いた化勁をかけています。
ポン勁を用いた化勁をかけられると、相手は押すに押せない状態となり、一定の力を出したまま、身体が硬直してしまいます。
理由は、力の方向を見失う事によって、一時的に脳がパニックを起こし、どの方向に力を出して良いのかが、分からなくなるからです。
この状態を 橋(アーチ)が、かかった状態と言います。
このまま、大きく崩す事もできますが、太極拳の本質を言えば、相手をこの状態に維持させたまま、上記で紹介した連撃の渦に巻き込んでしまう戦術を特徴としています。
推手や対練を行っていると、こちらの動きは止められてしまうのに、相手の動きは止められずに押し込まれてしまう事があると思います。
そういった方は、感覚的に化勁を身に付けてらっしゃるのでしょうね。
ちなみに、投げ技でも、相手の抵抗が起きた時に、化勁でその抵抗を消してしまうような技法もあります。
化勁に関しては写真や映像でいくら説明しても、体感しないと、分からないので、実際に学びに来て頂くしかないですね。
太極拳の武術としてのデメリット
これまで太極拳の武術的なメリットについて紹介してきましたが、本項では逆にデメリットについても正直に書いておきましょう。
太極拳の武道としての短所には、以下のようなものがあります。
- 寝技の技術がない
- 適切な自由組手の試合形式がない
順に説明していきましょう。
太極拳には、寝技の技術がない
残念ながら、私の知る限り、太極拳には寝技の技術はありません。
自分が倒れた際に、相手の足を引っかけて倒す技術は見た事がありますが、本格的な寝技の技術は見た事がありません。
中国武術は、元々屋外で行うものですし、日本と中国の生活習慣の違いもあるのでしょう。
ですので、仮に太極拳家が総合格闘技の試合に出るなら、総合格闘技用の寝技の技術を一から学ぶ必要があります。
ただ、内功のできている人は、必然的に体の使い方が違いますし、化勁も使える人は、同じ技術を学んでも独特なものになるかもしれません。
総合格闘技で活躍する太極拳の選手というのも見てみたいものです。
太極拳には、適切なルールでの自由組手の試合がない
太極拳には、空手や柔道、ボクシングなどのように適切なルールでの自由組手の試合がありません。
推手形式の試合は行われていますし、中国武術全般の散打の試合も行われています。
しかしながら、これまで紹介してきた太極拳の特徴や長所を活かした上で、打撃も含めた試合形式となると、なかなか難しいものがあります。
その理由は、なぜでしょう?
当サイトでは、これまでいくつもの太極拳の用法例を紹介してきました。
これらの写真をて、何か気付く点はないでしょうか?
そう、攻撃する側の反対の手で、相手を制御しているのが分かると思います。
太極拳は攻防一体を旨としますから、相手の攻撃や防御に接触し、その腕を自分が攻撃しやすいように、制御しながら攻撃します。
それ故、ほぼ確実に相手の腕に接触した状態で攻撃している事になります。
これは、ルール上だと掴みありの打撃のルールという事になります。
ボクシングや空手の試合を見た事がある方は分かると思いますが、通常の打撃のルールでは、掴みは禁止です。
何故かというと、掴みありで打撃の試合をすると、お互いに掴み合って、殴り合う訳ですから、喧嘩と同じようなスタイルになります。
そうなると、スポーツとしてとか、武道として、一般に見せる事ができるかというと、正直難しいでしょう。
本当は、そのルールの中でも、掴み合って、殴り合うのではなく、太極拳独特の攻防の展開ができれば理想なんですけどね。
ただ制限時間を決めて、その中で本気で相手を倒そうとすると、9割がたは、喧嘩スタイルになってしまうでしょう。
当会でも、試合スタイルをやりたいという若い子達が集えば、色々な試合形式を試してみたいとは思いますが、どうしても太極拳というと、40代位から始める方が多いです。
そうなると、なかなか実現できないのが実情です。
若い子達が、太極拳や八卦掌に興味を持ってくれるように、拙文が少しでも役に立てばと思い本記事を書いています(^_^;)
太極拳が格闘技の試合に対応するためには
本項では、仮に太極拳家が格闘技の試合に出場する場合に、私自身がどのようなアドバイスをするのかを基準に考えてみたいと思います。
私個人がアドバイスをするとしたら、以下の4点となります。
- 太極拳の本質的な技術を習得する
- 太極拳の特長を活かした自由組手の練習をする
- ルールに応じて技法をアレンジする
- 出場するルールでの経験を積む
順に説明していきましょう。
太極拳の本質的な技術を習得する
これは試合に限らず、武術としての太極拳を学びたいのであれば、やはり太極拳の本質的な部分まで伝えている門派を選んで学ぶ必要があります。
太極拳の型に含まれている技法を使うには、内功を基にした太極拳用の体を作っていく必要があります。
正直を言えば、そういった内容まで伝えている教室は、ごく少数だと思います。
教室の選び方や学ぶ上での心得、太極拳がどのような練習体系を有するのか、また何を基準とした練習を行っているのかは、以下の記事をご参考下さい。
- 伝統太極拳を学ぶ心得(伝統本来の指導法とは?)
- 伝統太極拳の基本と練習体系
- 太極拳の本質、内功について
太極拳の特長を活かした自由組手の練習をする
【太極拳の特長を活かした自由組手の練習】 をどう行うかが、太極拳で格闘競技に対応できるかどうかの最重要な課題となります。
と言っても、太極拳の技術体系にまったく自由形式の対練が無い訳ではなく、自由推手や搭手の状態で手を付けたままの散手の練習はあります。
この段階で学ぶのは、ズバリ変化と対応です。
この密接した状態で、相手の攻撃に対し、どれだけ対応可能な体を作れるかが、太極拳を武術として使えるかどうかの鍵となります。
実際、この過程までをしっかり習得できれば、自由散手までの道は、ある程度見えてくるでしょう。
後は歩法や拍子などを工夫し、相手をどう撹乱し、自分にとってどう有利な状態で、相手に接触するかを考えていけば良いと思います。
一つのヒントを言えば、やはり太極拳の技法を連続して出しやすい間合いというのがあります。
それは、一般的な打撃系の格闘技の間合いとは違いますし、柔道のようにしっかり掴み合う訳でも、相撲のようにがっつり四つに組む訳でもありません。
一瞬の交錯の中で、その間合いに入り、相手を渦の中に巻き込めるかが肝要です。
最後に自由散手の注意点として、太極拳は護身術的な発生の仕方をしているため、攻撃箇所が、顔面、後頭部、首、金的といった致命傷を与える部位ばかりです。
ケガをしないように細心の注意をする必要があります。
ルールに応じて技法をアレンジする
太極拳で格闘技に対応するための三つ目は、太極拳の技法を各ルールに応じてアレンジする事です。
特に打撃系のルールで掴みが一切禁止の場合は、相手と接触して制御する戦法は、ルール上使い辛い場合があります。
そういった場合は、各技法をそのルール内でも使えるようアレンジする必要があります。
雲手(うんしゅ)を応用したワンツー
太極拳の雲手の応用として、ボクシングのワンツーのように前方にいる相手を挟み打つ技法を紹介しましょう。
速く動いている時は、指先で突いているように見えますが、実際には、右 → 左と手刀部で挟むように打っています。
また、右の雲手の中から、左の雲手が生じ、一挙動となるのが、この打法の特徴です。
動画では、ワンツーとなっていますが、実際には、この後さらに右雲手を放ち、三手を同時に用いる事が多いです。
手刀を用いた攻撃が認められないルールの場合は、拳頭部を用いて行う事も可能です。
演手捶を用いた二段打ち
先に紹介した演手捶を用いた二段打ちを紹介します。
一打目の演手捶で相手のガードを固めさせ、相手のガードが緩んだ瞬間に二打目の演手捶を打ち込みます。
いずれも内功による操作で、一挙動で行い、二打目も威力が落ちないようにする工夫が必要です。
二打目を鉤突き(肘底看拳)へ応用する事も可能です。
手でチョンチョンと突いているように見えますが、スーパースロー再生で見ると、二打目もしっかりと打ち込んでいるのが分かると思います。
六封四閉を用いた連打
打撃系にしろ、総合格闘技にしろ、相手がKOで倒れるのは、抜群のタイミングのカウンターか、相手がバランスを崩した瞬間の連打だと思います。
ここでは、六封四閉の撞掌を用いた太極拳式の連打を紹介します。
分脚(ぶんきゃく)を用いた、上下の挟み撃ち
雲手を用いた左右の挟み打ちを先に紹介しましたが、ここでは分脚を用いた上下の挟み撃ちを紹介します。
本来の分脚は、相手を引き崩した後に頭部や腹部などをピンポイントで蹴りますが、掴み禁止のルールでは使えません。
ここでは、右劈掌(高探馬)で相手の上段の防御を誘い、相手の意識が上に上がった瞬間に腹部を蹴っています。
この挟み撃ちの技術は、他に白鶴亮翅や斜行単鞭などでも応用可能です。
各自で色々と考えてみましょう。
ここまで、いくつかの太極拳の技法を現代格闘技風にアレンジしてみましたが、いかがだったでしょうか?
実際には、そのルール自体で、また変わっていくでしょうから、そのルールに応じて色々と考えてみると面白いと思います。
出場するルールでの経験を積む
一発勝負の異種格闘技戦も面白いですが、私だったら、やはりそのルールでの経験を積みます。
初めは仲間内で、そのルールの典型的なスタイルで相手をしてもらいます。
その中で、自分の門派の技術がどう使えるのかを、徹底的に研究します。
色々と試していれば、思わず出てくる技もあるでしょう。
そして、その技法が、実は太極拳のある技法だったり、応用例である場合もあると思います。
その作業は、とても楽しいと思いますよ。
その上で、可能であれば、その大会に出場している団体に出稽古に行ってみるのもよいでしょう。
今の時代、いきなり道場破り扱いはされないと思いますが、事前にちゃんと連絡をして、最大限の礼儀は必要です。
そうして、今できる限りの準備をした後、試合に出るのであれば、出場してみましょう。
それでも最初のうちは勝てないかもしれません。
その理由は、そのルールでの最良の戦い方を、その主催団体がすでにしているからです。
初期のアルティメットの大会でグレイシー柔術が圧倒的に強かったのは、あのルールは、彼らのルールだったからです。
他の出場選手が、どう戦えば良いのか分からない中で、そのルールでの戦い方を熟知していた訳です。
他人のルールで勝てるようにするには、彼ら以上に、そのルールに熟知し、彼らが使わない(使えない)技術をこちらが磨くしかありません。
まとめ
今回は、太極拳の実戦性について、あるいは太極拳がどのような戦い方をするのか、また太極拳が武術や護身術として実際に役に立つのかなどの疑問に対して、私なりの指針を示してみましたが、いかがだったでしょうか?
現在の私自身が、格闘技に挑戦したいという気持ちはありませんが、それでも太極拳で格闘技に挑戦したいとか、総合格闘技で太極拳の技術を活用したいという方がいれば、最大限の応援や協力をしたいという気持ちはあります。
ただし、その人自身に、どれだけの主体性があるかですね。
私自身が箱(練習場所や時間)を用意しても、その人自身が練習に来なかったり、諦めてしまっては意味がありませんから。
具体的には、練習場所は自分で確保してくるとか、練習相手(トレーニングパートナー)も自分で探してくるとか、そういった主体性のある方がいれば、喜んで協力します。
もちろん無償という訳にはいきませんが、費用は相談にのるし、学生であれば学割にしてあげます。
遠方でも構いませんよ。今は、コロナ禍で動けないかもしれませんが、オンラインもありますから、その人のやる気次第です。
女性でも構いません。総合格闘技で女性が、太極拳や八卦掌の技で活躍するなんて、夢があっていいじゃないですか。
いずれにしても、競技に専念できる期間は限られているでしょうから、躊躇してる時間があれば、早く行動に移したほうが良いと思います。
また他武道の団体で、太極拳や八卦掌の技術を活用したいという場合も、ちゃんとした段取りさえ踏んで頂ければ、前向きに検討します。
上記のような、熱い気持ちをお持ちの方がいれば、問い合わせフォーム からご連絡を下さい。
こちらの心に響くものがあれば、前向きに返答を致します。
概要のみを抜粋したつもりですが、それでも結構な文字数となりました。最後までお読み頂きありがとうございました。
当会で太極拳を学んでみたい方は、【受講案内】のページをご覧下さい。
中国武術で使用する手型と使用法についてまとめてみました。よろしければ、ご参考下さい。
中国武術(太極拳や八卦掌)の蹴り技の基本概念、種類、使用法については以下のページで紹介しています。
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